研究課題/領域番号 |
20K20816
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研究機関 | 国立教育政策研究所 |
研究代表者 |
白水 始 国立教育政策研究所, 初等中等教育研究部, 総括研究官 (60333168)
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研究分担者 |
益川 弘如 聖心女子大学, 現代教養学部, 教授 (50367661)
辻 真吾 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任准教授 (80431823)
齊藤 萌木 東京大学, 高大接続研究開発センター, 特任助教 (60584323)
飯窪 真也 東京大学, 高大接続研究開発センター, 特任研究員 (40609971)
市川 治 滋賀大学, データサイエンス学部, 教授 (00821612)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 発話量 / 理解 / 協調学習 / 建設的相互作用 / 知識構成型ジグソー法 / モニター |
研究実績の概要 |
本研究は対話的な学習場面において沈黙しがちな子どもでも深く学ぶメカニズムと授業の条件を明らかにするために,小中高校において収集済みの対話データを基に,量的・質的研究手法を融合して発話量と学習成果の相関関係及び対話過程の分析を行い,寡黙な学習者の認知モデルを開発するものである. 本年度は,昨年度量的な検討を行った中高の「知識構成型ジグソー法」7授業61グループ172名の発話データについて,いかなる発話パタンが見られるかを各授業内全生徒の平均発話数との大小でカテゴリ化し,3,4名のグループにおける話量の組み合わせごとに寡黙な生徒がいかなる認知過程に従事しているかを質的に検討した.昨年度の量的な検討で,多く話す生徒が理解を深めるという単純な正の相関が認められないことから(1分あたりの話量と理解度の伸びとの間の相関係数は.07),既に寡黙な生徒が理解を深めているとの仮説を提出していた.質的な対話プロセスの分析結果からは,例えば(饒舌,饒舌,寡黙)という三人組の場合に,寡黙な生徒のわずかな発言を見ると,饒舌な二名の生徒の対話をモニタリングしながら,それを総括・視点転換するような発言をしていることがわかった.他にも(饒舌,寡黙,寡黙)の場合は,饒舌な生徒の指示に呼応しながら,発言だけでなく,ワークシート上の作業などを通して,課題解決を進めて理解を深めていることがわかった. これらはいずれも,対象とした授業では寡黙な生徒が他の生徒の会話をよく「聞いて」おり,資料中の情報を押さえ,要所でそれを結び付ける役割を担っていたことを示唆している.その点で,場の対話の論点(意味空間)を拡張することや,意味的に先導することに長けたモニター本来の役割をよく果たしていたと言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の研究実績を「話量は理解となぜ相関しないのか? ―『知識構成型ジグソー法』授業を例に―」という論文にまとめ,2021年度日本認知科学会にて口頭発表に採択され報告した.その成果は,現在,話量の自動計測と寡黙な児童生徒・グループへの強制介入という支援策が導入されようとしている教育界に再考を促すインパクトを与えた.具体的には,文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」の中間まとめや,また国立教育政策研究所「『学習評価』の充実による教育システムの再構築」というシンポジウム報告書に掲載されている. 以上の量的・質的検討の進展に比して,当初予定していた認知モデルの構築,それに基づく機械学習による予測研究に遅れがみられる.
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今後の研究の推進方策 |
【相関分析・予測】班では,既存148授業について書き起こしが終わっている767グループ(192時間)のデータのうち,上記の研究に用いた61グループを除いた706グループについて,授業前後記述解答の分析を済ませ,相関関係の把握及び予測を行う.さらに「知識構成型ジグソー法」以外の授業についてもデータ収集を行い,授業の質と相関関係の出方についての結果を示す. 【対話分析】班では,本年度の結果に,上記の結果を併せ,寡黙な学習者の認知モデルを構築し,既存データを用いた機械学習と予測の妥当性検証を実施する. 【社会実装(教員支援)】班では,オンラインでの教員対象のワークショップ/セミナーを企画し,話量のみ,話量と授業前後記述解答,それらと発話内容という形で段階的に情報提供を行ったときの学習者の見えの変わり方,及びその上での深い学びに繋がる「良質な沈黙」とそうではない沈黙を見分けられるかを検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により参加を予定していた日本認知科学会等各種イベントがオンラインに切り替えられたこと,授業前後記述解答のデータ整理や機械学習のための分析作業謝金従事者が雇用できなかったこと,各種ワークショップや分析のための対面での委員会を延期またはオンラインで開催せざるを得なかったことで,研究に若干の遅れが生じ,使用する経費に変更が生じた.今後は,遅れを取り戻すことに次年度使用分の経費を使用する.
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