本研究は、コネクテッド教室(インターネットの常時接続によって、ウェブアプリの使用やオンラインでの交流などが可能な教室)において、教育に関わる伝統的信念の転換を生徒の視座から進めるためのエビデンスを収集することを目的とした。エビデンス収集については、AIの実装された数学用ウェブアプリを使用した高等学校数学科授業と(短期の取り組み)、三カ年にわたる長期の取り組み(ICTの利活用が自在にできる環境の設計と、そこでの生徒の行動理解をねらいとするもの)であった(長期の取り組み)。 短期の取り組みからは、ウェブアプリによって可能になった実験や検索を通して、伝統的カリキュラムとは異なる数学的事実との新たな出会いが起きていること、そして生徒自身が驚きや自信、喜びといった感情を持ちながら主体的に活動していることが窺われた。長期の取り組みからは、周りのリソースを編集したり補足したりすることで新たな知識体系をつくりだしたり、記憶すべき事柄に適当なラベルをはったり、他者の考察の道筋を共有して相互評価したりというように、コネクテッド教室に実装されたICTと共にある学びの仕方が浮き彫りになった。 以上のことから、カリキュラムはそのままでありながら学びの方法だけが多様化することによって、かえって事前に意図されたカリキュラムの達成は危ぶまれる危険性があることがわかった。したがって、次のような諸原理を新規のカリキュラム開発に置くことを提起した: ●数学的知識や技能は,発見・検索・探索される対象であると同時に,次なる問いやニーズを生み出すリソースでもある。 ●計算は,目的志向的で身体を伴う運動でもある。 これらの思想的背景には「構築主義」があり、デジタル技術に支えられたコネクテッド教室において学習理論もまた更新の必要性があることを主張した。
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