昨年度実施した国際シンポジウム(日・米・英・フィンランド)では,教員のセカンドキャリア開発の重要性は各国共通で認識されているが,「年齢」でキャリアを区分するのは日本固有であることが判明した。本年度は,年齢(60-65-70-75)の変化を追うのではなく,教員の定年退職から再任用への「移行」前後に生じる変化に着目し研究を進めることとした。変化の指標は,教員のウェルビーイングであり,主観的幸福感,ワーク・エンゲイジメント,抑鬱傾向の3要因で構成した。別の科研費で生成したパネルデータ分析を民間業者に委託し,ダッシュボード形式で様々な変化が確認できた。2021年度調査では,ウェルビーイングの3要因のいずれも,50歳代は横這いであるが,再任用後に,急激に上昇する現象が認められている(学校種を問わない)。再任用後は,主要業務が授業・学級経営に限定され(短時間の場合はほぼ授業限定),教職の本務に専念できる環境を手に入れたと解釈できる。ところが,教員不足が顕著となった2022年度調査では,再任用後の上昇幅が縮小している。 業務量の増加や周囲の依頼による不本意の就任等が,その原因と考えられる。本ダッシュボードは,教員委員会との共有にとどまっているが,今後,研究成果としてまとめ,社会に還元する予定である。 教員セカンドキャリア開発を支援するため,50歳代の教諭を対象とした,別職種への移行を促す履修証明制度「チーム学校スペシャリスト養成講座」を,2020年度から開始し,2022年度は,現職教員4名,外部人材7名の計11名に証明書が授与された。教諭から外部人材への移行を促す事業ではあるが,外部人材の職能開発の事業としての価値の方が高く評価されている。また,昨今の教員不足現象下では,教諭を外部人材ではなく,再任用教員として継続させる方向に向かわせる。本年度も,教員不足現象と向き合いながらの事業展開となることが予測される。
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