研究課題/領域番号 |
20K20847
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
徳久 恭子 立命館大学, 法学部, 教授 (60440997)
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研究分担者 |
香川 七海 日本大学, 法学部, 准教授 (20816368)
木村 元 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任教授 (60225050)
荻原 克男 北海学園大学, 経済学部, 教授 (70242469)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | インフォーマル・ネットワーク / 自主研究活動 / 教員団体 / 学力 / 教研活動 / 教職員組合 |
研究実績の概要 |
本研究は,教員間および教員団体間で築かれるインフォーマル・ネットワークの厚さが,教員の資質ひいては教育水準の高さを左右するという仮説の下に,教員の自主的な研究活動の実態に迫ろうとするものである。 近年,教育社会学者の広田照幸を中心に日本教職員組合の研究が進められているが,研究の焦点は「労働組合としての日教組」と「平和運動の担い手としての日教組」に据えられており,教員による日常的な教育実践がどのようなものであったのか,それらが日本の公教育にどのような影響を与えたかについての検討は周辺に置かれている。だが昨今の教育格差の拡大(二極化する公教育)という現象に鑑みた場合,公教育の何が損なわれているのかを明らかにする必要がある。本研究が教員の自主研究活動に注目するのは,それらが教員の資質を均質化するのみならず,教育水準の標準化と上昇を促したと考えるからであり,それらが損なわれていることは公教育の弱体化と無関係でないと推測するからである。 ここに述べた予想は,これまでに行った文献研究から導き出されたものであるが,その実証が求められる。そこで,研究代表者は分担者の香川と協力して,教員の自主研究活動に関する資料を経年的に,テーマ別に保存している神奈川県高等学校教育会館県民資料室での資料収集活動を行い,検証を試みている。ただし,後述のように,2021年度の活動は資料収集の段階にとどまっている。資料を用いた検証作業は2022年度に行う予定である。(注:資料収集の成果一部は,資料紹介という形で公表されている。) 他方,研究代表者と分担者は昨年度同様,文献研究を進めており,そこで得られた知見と資料の照応を進めるための準備は整いつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
COVID-19の関係で,資料収集先の入館制限があり,特定の期間しか資料にアクセスできない状況にあった。このため,資料閲覧の回数は当初予定よりも少なく,十分な収集は難しかった。とはいえ,資料収集先である神奈川県高等学校教育会館県民図書室のご配慮で,館外での電子化作業をお認め頂き,複数の制約がある中でも一次資料の電子化作業を進めることができた。 研究初年度(2020年度)は,COVID-19の影響で採択時期が後ろ倒しになったこと,都道府県外への移動に制約があったことから,資料そのものにアクセスできずにいた。このため,2021年度は資料の確認,整理,電子化の順位付け等の作業に多くの時間を割かざるを得ず,1次資料を利用した分析を本格化させる段階にまで至っていない。初年度に実施すべき作業を2年目に持ち越したという点で研究の進捗は「遅れている」と判断せざるを得ない。 とはいえ,厳しい条件の下でも資料収集は確実に進んでおり,研究計画全般における位置づけではなく,単年度の成果に限れば,「やや遅れている」と評価することもできる。資料収集の過程では,こちらが検討の対象としていなかった資料の閲覧も許され,研究計画の段階では想定しなかった課題の発見にもつながっている。こうした点を考慮すれば,「遅れている」状況を改善するような研究展開が次年度(2022年度)に期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19の影響で研究着手が遅れたことと,その影響は当面続くと予想されるため,研究期間の1年延長を念頭に置いた研究展開を予定する。 具体的には,2022年度中に資料収集をさらに進め,本研究の中核をなす「ネットワーク化」の実態に迫ることを目的とする。ただし,これまでの資料収集からは,ネットワーク化に関する資料が非常に限られていることが明らかになっている。そこで,本年度は資料収集にあわせて,当事者(元教員)への聞き取り調査を実施したいと考える。聞き取り調査の対象者は年配者であることも多いため,個人情報保護法に則り調査協力の意思確認を対象者から得るのみならず,ご本人の体調や実施時期についても十分相談し,柔軟に対応することを前提に進めていきたい。 資料収集は研究代表者の指示の下,研究分担者の香川が中心になって進めているが,他の分担者との共有は不十分な状況にある。研究分担者の荻原と木村が進めてきた文献研究の知見と収集した資料をあわせて,どのような研究成果に結びつけていくかを検討するために,今年度はzoom会議のほかに,複数方向の意思疎通が容易な対面での研究会(可能であれば研究合宿)を実施する。収集した資料の検討は,他の専門的知見を得ることで深まることもあることから,今年度は専門的知識を得る目的でゲストスピーカーをお招きした研究会も実施する。 くわえて,第三者からの意見を伺うために,2022年8月に実施予定の日本教育学会での報告を予定している。 研究会や学会において得られるであろう助言や批判等を踏まえて,研究展開の練り直し,本年度と可能であれば最終年度延長を合わせた2年間で最終的な成果発信に向けた研鑽を積みたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の影響で資料収集やヒアリング調査,研究会など対面型の研究活動が実施できず,旅費および調査に関する予算(テープ起こしや資料の電子化等に係る費用)の執行が部分的にしか行えなかったため次年度使用額が生じている。 繰り越された使用額については,次年度(2022年度)に先送りしているヒアリング調査に係る諸費用(旅費やテープ起こし等),2021年度から継続している資料収集および電子化に係る費用,対面型の研究会および研究合宿費(旅費,講師料等)に係る費用等として執行を予定する。
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