本研究では、インクルーシブ教育の展開を客観的に把握する手法として数理モデルを開発して表現する方法の検討を行った。特に日本における通級による指導の対象者数が急増している傾向を分析対象として、多項式近似や成長曲線による検討を行った。現在までの推移を元にした近似式を導いて、今後の増加予測を行い、およそ2030年代初めに50万人くらいの発達障害の疑いのある児童生徒が通級による指導をうけることになるとの推定を行った。傾向は、通級による指導の対象障害種の中から、学習障害、ADHD、及び知的障害を伴わない自閉症について分析し、それぞれの予測式を導いた。学校における発達障害の疑いのある児童生徒の割合を推定極限に設定した成長曲線を用いて、さらに将来の変動傾向について予測を試みた。通級による指導は、2022年の文部科学省の調査による通常学校における特別な支援を必要とする児童生徒への対応としてさらに活用を拡大することが言及されるなど、通常学校における特別支援教育の柱としての位置づけを持ちつつあるが、その一方で通常学級が有する「標準」の見直しがなされず、「特別な指導は特別な学習の場で」との傾向が固定化する懸念から、障害者権利委員会からも指摘を受けることとなった。児童生徒数全体の減少傾向の中で、通級による指導の今後の対象者数の動向や、特別支援学級、特別支援学校の在籍者数の傾向の分析を行って、日本における特別支援教育やインクルーシブ教育の傾向を客観的に明らかにして、制度設計の判断に資する知見を得たい。今後、影響を与えると考えられる変数をどのように投入すれば、より精度の高い予測が行えるかを検討する課題が残された。投入される変数が変動傾向に何次の関数としての影響を与えるのか等の関係式の導出とその意味するところの言語化が直近の検討課題である。
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