研究課題/領域番号 |
20K20863
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
野村 理朗 京都大学, 教育学研究科, 准教授 (60399011)
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研究分担者 |
田中 美吏 武庫川女子大学, 健康・スポーツ科学部, 准教授 (70548445)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 無心 / 東洋思想 / 伝統 / 先端技術 / 身体技法 / 曖昧性 |
研究実績の概要 |
東洋思想をはじめ武道芸道の実践者の関心を惹きつけてやまない「無心」。本研究課題は、心理学、身体科学、脳科学で語られてきた自己超越的感情やマインドフルネス、フローといった概念を手掛かりとし、問いを立体化することにより「無心」に関わる研究のパラダイムを構築する。 そのために令和3年度は、認知と身体性の軸、これに加えて東洋思想の視点を包括し、自然界や競技場面において「無心」あるいはその対極に生じる「乱心」の規定要因やメカニズムその個人差についての実験・調査研究を重ねてきた。その主な結果として、1)無心の一側面に関わる曖昧性への多次元的態度尺度(Multidimensional Attitude toward Ambiguity Scale: Lauriola et al.,2016)の日本語版を開発した。その方法論として347名(女性147名, Mage=39.1)にオンライン上での回答を求め、解析の結果内的一貫性・再検査信頼性・構成概念妥当性を確認した。また実験室実験により、2) 競争が運動課題における自動模倣に及ぼす影響について数字刺激に対する反応潜時を指標とした行動課題(於:大学生24名)により、競争下において模倣が促進/抑制される個人差を明らかにした。以上の結果に加えて、3)東洋思想(「井筒俊彦の共時的構造化」「唯識思想」等)の視座をふまえて、「無心」モデルを構築した。例えば、マインドフルネスとの共通性も多い一方、その相違点として、「無心」においては対象そのものへと溶け込み、あるいは“自他を分かつ以前の状態”にまでいたること。重要な点は、そうした“未分”に没入するでもなく、そこには明晰さや“強度”も伴う。この双面性や対極性のレイヤーの並存する状態を「無心」として定義した。これらの論考が書籍として印刷中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究プロジェクトは「無心」像へ、以下の4つの方法論・視点から迫るものである。すなわち、1.質問紙尺度の開発、2.脳機能画像化法、3.哲学・宗教学との協同、4.スポーツ競技者を対象とした実践研究、である。 項目1については、上記のとおりの成果を得ており、項目3は日本心理学会シンポジウム、研究会、講演会等を通じて情報発信してきた。また項目4としては、2021年度にリスク下における意思決定、自動模倣等に着眼した実験室実験を複数行い、競争下での認知や運動に対する無意識的な他者の影響を明らかにしてきた。項目2はコロナ禍における制限下においてデータの採取に若干の遅延が生じている。以上これまでにとりうる実験や調査研究を重ね、上記の成果が得られたことから、概ね順調に研究が進んでいるものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
得られた研究成果の学術雑誌への投稿・掲載に注力するとともに、学会シンポジウム、HP等を通じた情報発信を行う。具体的な研究課題としては、特にコロナ禍において展開の遅れた上記の項目2(無心に関わる脳基盤の検討)を中心に立て直しと展開をはかり、自然界や身体技法を駆使する競技場面におけるマインドフルネス、フロー、その対立軸としてのイップスやあがり等の関係性を包括し、無心像の周縁部分から中核へと迫ってゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はコロナ感染拡大状況を受けて、国内・海外出張旅費、実験室実験の一部謝金等使用予定であったものが残として生じた。これを今年度、対面での学会旅費、実験室実験(MRI実験を含む)の経費(謝金、施設使用料等)に充当し、適切に研究を推進する。
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