研究課題
体内時計は環境の昼夜変動への適応のために生物に備わった仕組みで、単細胞生物から多細胞生物、そしてヒトへと受け継がれてきた。ヒトの体内時計は、数十兆個もの臓器にある末梢時計とそれを束ねる視交叉上核にある中枢時計からなり、中枢時計と末梢時計の関係を統合して捉えることが、生体リズムの理解に必要である。本研究では、昼行性であるヒトの体内時計の理解に繋げるために、非ヒト昼行性霊長類コモンマーモセットを用いた生体リズム解析系の確立をめざしている。前年度までに進めてきたEEG計測をさらに改善し、約1週間の安定した連続測定が可能となった。通常明暗周期下において、マーモセットの連続EEGはヒトに類似した日内変動を繰り返した。すなわち、明期の開始に覚醒が始まり(α波、β波優位)、昼間は覚醒と活動が持続し、長い活動休止期を経て夕刻になると、ノンレム睡眠(θ波、δ波優位)が開始した。そして、約1時間毎にレム睡眠が誘発され、レム睡眠-ノンレム睡眠が交互に繰り返された。連続EEGがマーモセットの睡眠覚醒リズム解析において優れた指標となることが明らかとなった。また、睡眠覚醒リズムと免疫機能の生体リズムの関係を調べた。今回、黄色ブドウ球菌からの防御に、表皮にあるケラチノサイト(角化細胞)の生体リズムが関与する分子機構を明らかにした。自然免疫で働くケモカインCXCL14のケラチノサイトにおける発現は、夜行性マウスでは、昼に高く夜に低いが、昼行性マーモセットでは、昼に低く夜に高かった。CXCL14は黄色ブドウ球菌のDNAに強く結合し、皮膚の樹状細胞でTLR9と呼ばれる細菌DNAのセンサー分子を活性化する。すなわち、自然免疫は睡眠中に発動し、皮膚から侵入した病原性黄色ブドウ球菌から個体を保護していた。本研究により、昼行性霊長類における免疫機能と生体リズムの関係が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
概日リズムの観察は長期計測が必要だが、頻繁な捕獲などによる刺激は避けることが望まれる。今回、EEGの連続安定計測系を確立し、マーモセットの睡眠覚醒リズムの長期観察が可能となった。また、個体の睡眠覚醒リズムが末梢臓器における免疫現象に重要な役割をしていることを、昼行性霊長類で明らかにした意義は大きい。
今後、マーモセットにおける睡眠覚醒リズムについて、EEG、EOGのみならず、体温などの他の指標も用いて総合的に解析を進める。その時に、特殊な明暗条件、特に時差環境下に置いた時に、体内時計の変動とともに睡眠覚醒リズムがどのように変動するかを調べていく。
長期間安定したEEG計測により、生体リズムのより正確な観察と解析が可能になった。次年度は、時差など特殊な明暗条件下での生体リズムの変動を総合的に捉えるため、EEG、活動、体温の同時計測により解析し、本研究を完成させる。
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Proc Natl Acad Sci U S A
巻: 119 ページ: e2116027119
10.1073/pnas.2116027119.