身体表象には,視覚や固有感覚などの外受容感覚に加えて,内臓系や自律神経系など身体内部から集まる各種生体情報に基づく感覚である内受容感覚が深く関与することが示唆されている。しかし,高齢者の身体知覚への内受容感覚の影響を調べた研究はない。内受容感覚は身体表象の安定性を生み出す基盤である一方,外受容感覚は身体表象の周囲環境への適応を促す基盤である。これらが拮抗して作用することによってバランスのとれた身体表象が形成・更新されると考えられる。そこで本研究では高齢者の身体表象の形成・更新プロセスおける内受容感覚の影響を,ベイズ理論の枠組みを利用して明らかにする。また,得られた知見に基づき,高齢者の個々人の身体表象の改善に有用な,効率的かつ効果的なバーチャル・リアリティ(VR)を使った介入方法を提案する。 本年度は内受容感覚の加齢変化における感覚入力と身体モデルの統合プロセスとの関連性を明らかにするため,20歳代から80歳代を対象にした大規模なオンライン調査をおこなった。調査では内受容感覚に対する気づきの項目(MAIA,IAS)のほか,現在の身体運動機能(ADL)と運動習慣(IPAQ)を問う項目を含めた。その結果,従来,内受容感覚は加齢とともに低下すると報告されてきたが,MAIAの多くの下位尺度で高齢者では内受容感覚への気づきが増加していた。また,階層的重回帰分析の結果,MAIAの多くの項目で年齢やADLの主効果のほか,年齢とADLとの間に交互作用が認められ,年齢の効果をADLが媒介していることが示唆された。ただし,本実験ではオンライン調査を行えるような意欲と能力を持った高齢者が参加していることや,あくまで内受容感覚の自己評価を示したものであり,今後は心拍検出課題など客観的指標との関係を調べていく必要がある。
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