研究課題/領域番号 |
20K20884
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
白井 朋之 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (70302932)
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研究分担者 |
河原 吉伸 九州大学, マス・フォア・インダストリ研究所, 教授 (00514796)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 行列式確率場 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
ギニブル確率場は複素ガウスランダム行列の固有値から定まる平行移動と回転に関する不変性をもつ2次元ユークリッド空間上のきわめて重要な行列式確率場である.互いの点の間に反発的な相関をもつこの行列式確率場からのサンプリングはワイヤレスネットワークなどの応用上重要であるが,定義をそのまま用いたサンプリングでは,固有値の計算を実行する必要があり,大規模なサンプリングには困難が伴う.Ghosh・三好・白井の論文では,三角格子の各点を独立にガウス分布に従って摂動することによって得られる摂動格子でこの確率場を近似することを考えた.各ガウス分布の分散のパラメータを0から無限大に動かしていくと三角格子からポアソン点過程までを補間することができるが,途中適当な分散の値でギニブル確率場に近づくことを,点配置の間の2種類の距離を用いて測り,ほぼ同じ分散の値においてギニブル場に最も近づくことを観察した.摂動格子は数値実験にも適しており,これを適当に修正することにより,離散空間上の行列式確率場をサンプルするための一つの方法とすることができないか考察中である.また,行列式確率場を定める相関核をいわゆるP0行列,つまり主小行列の行列がすべて非負になる行列に拡張することを考察している.正定値行列と歪対称行列の和として与えられる行列であることがP0行列となるための十分条件として知られているが,それに対応する行列式確率場の性質を調べた.またその過程で歪対称行列の部分を低ランクにしてかつ学習の高速化を目指して不要な対称性を消して学習のパラメータを削減するための代数的な議論をおこなった.この議論を具体的に計算機にのせて,実際に高速化が実現するかどうかを確認するためのプログラミングに着手した.P0行列のなす空間の中でランダム行列を発生させたときの固有値についての数値実験とともに理論的考察も行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
行列式確率場は正定値対称行列をパラメータ空間にもつ確率分布族であるが,そのパラメータ集合を正定値行列と歪対称行列の和のクラスまで拡張して表現能力を高め,さらにその確率分布族に対して機械学習する際に,余計な自由度を消して学習の高速化をするための数学的な考察を行った.その状況の確認のための計算機実験を開始した.新型コロナの影響もあり,実施予定であった研究打合せや研究会が実施できず,進捗は若干遅れている.
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今後の研究の推進方策 |
上記の状況を踏まえて,まず具体的な計算機実験をさらに追加で実施し,R3年度に考察したパラメータ空間の自由度を消すための工夫が,パラメータの学習にどのように生かされるかを確認する.またその結果に応じて,うまく行けばその深層化(多次元化)の方向への考察をおこない,うまく行かないときは理論面についての再検討を行う.また,パラメータ空間におけるランダム行列の固有値の問題は数値実験を行い,理論的な研究にも着手したが十分でない.可能ならば,この点についても考察していきたい.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症の影響で,行う予定だった研究打合せ,研究集会の実施ができなかったため次年度使用額が生じている.次年度使用分は,R3年度に実施した研究に対する計算機実験などを実施するために4月時点からのアルバイト雇用などを,またそれに合わせて計算機購入を行い,現在進めている数値実験を加速する.このことにより,人件費および物品費の増額が見込まれる.また,新型コロナ感染症の状況をみながら,対面での研究打合せ等が可能になった時点で早い段階で実施する予定である.
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