研究課題/領域番号 |
20K20885
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
長田 博文 九州大学, 数理学研究院, 教授 (20177207)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 無限粒子系 / ランダム行列 / エルゴード性 / 既約性 / 統計物理 / 古典力学 |
研究実績の概要 |
本年度は、Dysonモデルというランダム行列に関係する無限粒子系の確率力学に関して、まず、マルコフ過程としての既約性を証明した。これは、個々の粒子を区別するという意味で、ラベル力学に対して証明したものであり、「第二tail定理」という最近構築した一般的定理の応用となっている。 問題の難しさは、無限次元であるため、基礎になる測度が存在しないことである。したがって、遷移確率密度の存在が不明となる。にもかかわらず、規約性を証明した点である。無限粒子系を無限個の有限粒子系の両立性を持つ族と捉え直し、格有限粒子系の力学の規約性から、両立性を用いることによって、無限粒子系まで結果を持ち上げる、という手法を使用している。この極限操作が実行できるのは、第二tail定理のおかげである。 このラベル力学に対しては、不変確率測度が存在しないことも証明した。実際、Sphonによる、Dysonモデルのtagged粒子の運動のlog増大の結果を用いることにより、ラベル力学に関しては、不変確率測度が存在しないことを証明した。ソフトエッジ及びハードエッジに付随する、ランダム行列に関係する1次元の干渉ブラウン運動である、Airy干渉ブラウン運動、及び、Bessel干渉ブラウン運動では、ラベルダイナミックスの確率測度が存在するので、この結果は、bulkの確率力学の特徴を表している。なお、この規約性を証明した論文は、既にacceptされている。 ラベル力学の不変確率測度が存在しない以上、エルゴード性を追求する枠組みとして、アンラベル力学が研究の対象になる。Dysonモデルのアンラベル力学に関して、これは普遍確率測度が逆温度2のsine点過程となるが、これから構成されるパス空間の保測変換に対して、そのエルゴード性を証明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
典型的な遠距離強相互作用、無限粒子系である、無限次元ダイソンモデルに対して、既約性及びエルゴード性を証明した。本研究は、古典力学の性質を調べることを目標としているが、その第一歩として、無限次元確率力学系の重要な性質を証明できたから、概ね順調と判断する。本研究は、tail定理という研究代表者が考案した、一般論に基づくものであり、確率力学系に対して有効であったこの理論が、多くの応用を持ち、更に準古典近似に対してもロバストであることを示していく、という構想に基づいており、その第一段階の成功例となっている。
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今後の研究の推進方策 |
準古典近似を実行していく。その時に、確率力学において有効な手段であった、martingale分解定理を、如何に他の道具で置き換えていくかを追求する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ感染症が原因で、海外での研究発表及び共同研究が困難になったから。今年度は、コロナ感染症が収まると予想されるので、研究を進めたい。
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