無限粒子系の確率微分方程式を記述するうえで、重要となるIFC条件に関する論文を完成し出版した。IFC条件というのは、無限次元確率微分方程式の弱解が与えられた時に、m番目以降の弱解を、最初のm個の粒子を記述する有限次元確率微分方程式のランダムな係数とみなしたとき、m粒子系の方程式 が、一意的な強解をもつという主張である。つまり、無限次元方程式を、無限個の有限次元方程式の列に分解するための条件である。 一旦、これが実行できると、無限次元方程式の解析が、有限次元方程式の解析に変換できる。それぞれの有限次元方程式は確率微分方程式であり、本研究が目指す(ブラウン運動の項を持たない)常微分方程式ではないが、この段階で、本研究に必要な、低粘性極限をとることが期待できる。従って、この結果は目標に向かう重要な一歩となっている。注目すべきは、ここで、Dirichlet形式理論を使用していないという点である。低粘性極限では、極限に於いて、時間発展に関して非対称な対象が現れるので、対称Dirchlet形式を本質的に使用する議論を避けなければならない。この論文では、確率微分方程式としての構造だけを使用しており、Dirchlet形式の持つ 時間発展についての対称性を使用していない。今後、現段階の解の評価が、粘性によらない形にさらに精密化する必要があるが、この結果は、将来有効になると思われる。
2022年度には、Dysonモデルというランダム行列に関係する無限粒子系の確率力学に関して、既約性を証明し論文として出版した。
Dysonモデルのアンラベル力学に 関して、これは普遍確率測度が逆温度2のsine点過程となるが、これから構成されるパス空間の保測変換に対して、そのエルゴード性を証明し論文として2023年に出版した。
|