研究課題/領域番号 |
20K20890
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
古川 哲也 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (10756373)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 反強磁性 / マグノン / 熱伝導 / 有機結晶 / 軽元素 |
研究実績の概要 |
本研究では、有機物反強磁性体を舞台としたスピントロニクスの可能性を探索するために、BEDT-TTF分子からなる電荷移動錯体のうち反強磁性モット絶縁体状態を実現するκ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clにおけるマグノン輸送に注目した。この物質は擬二次元性を有する低次元系であり、以前から弱強磁性を伴う反強磁性相が実現することが知られていたが、最近その磁気構造の再検討が行われ、磁場下でのスピンフロップ転移が通常の反強磁性体で見られる磁気異方性と磁場の競合からではなく、面間相互作用と磁場の競合の結果起きることがわかり、その結果、BEDT-TTF層からなる伝導面に対して垂直方向に約0.3Tの磁場印加をすることによって鏡映で結ばれた2つのBEDT-TTF層のうち片方のスピン構造だけが反転するという特異なスピンフロップ転移を起こすことがあきらかになっている。クリーンかつ低次元性を有することが特徴の有機物系においては反強磁性体のスピン励起である反強磁性マグノンの伝導が、この特異なスピンフロップ転移の変化の前後で大きく影響を受けることが期待されたため、本年度は前年度に引き続き、このスピンフロップ転移によるマグノン熱流の制御を第一の目標とし、磁場下熱伝導測定に取り組んだ。新たに、微小な有機結晶であっても測定を行えるように設計した熱伝導測定系を立ち上げ、伝導面平行の熱伝導度を測定した。面垂直磁場印加によるスピンフロップ転移時の、面内熱伝導度の異常は見られなかったが、熱伝導度が反強磁性秩序温度付近から顕著な増大を示しさらに、大きな磁場依存性を示すことがわかった。これはマグノンの熱伝導への寄与を強く示唆し、当初想定していたマグノン熱流の制御へとつながるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍による制約もあり実験系の立ち上げに想定より時間を要した。現在は測定系が稼働して順調に測定が進行している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、反強磁性秩序モット絶縁体κ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clの熱伝導度測定を進める。さらにスピン液体候補物質である反強磁性有機結晶などの類縁物質における熱伝導度測定も視野に入れる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍に伴い旅費出費がなくなったこと、また実験に必要な装置が他の研究と共有できたことにより未使用額が生じた。測定に伴う消耗品にかかる経費が当初の想定よりも大きいため、翌年度の研究において円滑な実験のために助成金を使用する。
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