研究課題
本研究では、有機物反強磁性体を舞台としたスピントロニクスの可能性を探索するために、BEDT-TTF分子からなる電荷移動錯体のうち反強磁性秩序を示すモット絶縁体に注目した。令和4年度は本研究課題の最終年度に当たり、昨年度までに構築した熱伝導測定系を用いて、低温で反強磁性秩序転移を示すκ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clおよびβ'-(BEDT-TTF)2ICl2におけるマグノン磁気熱輸送の検出および熱ホール効果の観測を目指し、熱伝導率測定を行った。その結果、両塩において反強磁性磁気秩序温度以下において、熱伝導の磁場による減少を観測することに成功した。観測された熱伝導の磁場による抑制は他の無機系磁性体と比べてもその程度が大きく、詳細な解析によりマグノンによる熱伝導が存在することが明らかになった。この結果は擬二次元有機反強磁性体において顕著な磁気熱輸送現象が生じていることを初めて捉えたものである。弱強磁性を示すκ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]Clについては、特異な磁気構造を反映して生じる可能性のある熱ホール効果の測定も行ったが、現在の測定精度の範囲では有意な熱ホール信号を捉えることはできなかった。ただし今後の研究で測定系の改良などによって測定精度を上げることで、より詳細な検証が可能になると考えられる。本研究によって、これまで磁気熱輸送現象の舞台として知見に乏しかった有機磁性体においてマグノンによる熱輸送が検出可能であることが初めて明らかになり、有機磁性体が反強磁性スピントロニクスに有望な材料系であることを示すことができた
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JPS Conference Proceedings
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Phys. Rev. Research
巻: 4 ページ: 023196
10.1103/PhysRevResearch.4.023196