『磁場』は電子に直接作用するため、全ての物質で何らかの磁場効果が観測される。磁場効果が顕著な物質では、ノーベル物理学賞で知られる量子ホール効果のような、美しい物理が現れる。磁場下での物理現象の多様さには驚かされるが、超伝導磁石のような一般的な磁場発生装置は『20テスラ程度の低磁場』しか調査できない。より強磁場下での探索的研究は、磁場効果が小さな、しかし広範な物質群において必須である。このような状況で、『1000テスラ級の超強磁場が発生可能』となったが、金属物性をプローブする『トランスポート物理量の測定手法は未確立』であった。そこで本研究で電気抵抗測定手法を開発し、1000テスラ級磁場下での研究基盤を固める。 2021年度は、本研究の主目的である『1.新しい電気抵抗の測定手法の開発・発展』を進めた。これに加え、『2.薄膜温度計を使った超強磁場領域での熱測定や超音波物性測定の開発』など、電気抵抗以外にも多種多様な装置開発を進めた。そして『3.グラファイト、高温超電導体、ビスマスなど多岐に渡るサンプルで実験』を進めた。 1の電気抵抗測定手法の開発については、2020年3月に報告した測定手法をベースに、改良と成熟を行った。ここではインピーダンスマッチングを利用した100~500MHz帯域での抵抗測定手法を確立した。これに加え、2で述べた電気抵抗以外の測定技術も開発した。1000テスラ級超強磁場下での物性物理を展開する新技術を獲得した。 3の複数サンプルにおける実験では、パルス磁場下での発熱を完全にゼロにすることはできなかった。しかし幾つかのサンプルでは新しい知見を得ることができ、論文の調整を進めている。今後の更なる発展が期待できる。 これらの成果から、~1000テスラ級超強磁場での遍歴電子系科学を推進する土台を作り上げたと評価した。
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