研究課題/領域番号 |
20K20895
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
明石 遼介 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40734356)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 準安定状態 / 結晶構造探索 / 超伝導 |
研究実績の概要 |
本課題では、熱力学的に不安定でも合成可能な準安定固体相を探索するシミュレーション手法の開発を行う。一方昨年度の研究動向を踏まえ、実際の超伝導相の電子状態解析手法の開発も計画に組み入れている。
準安定固体相が多数生成する系として、圧力下水素化物をとりあげ、これの集団座標を検討した。具体的には、近年提案されたSmooth Overlap of Atomic Positions (SOAP)による原子配置表現を計算可能にして、これを水素化物に適用した。この後は水素化物の有効原子間ポテンシャルのSOAPによる表現の計算および、それを利用した準安定相間変態における有効集団座標の抽出へと進む予定である。
一方昨年度の新奇準安定超伝導体の研究の発展として、超伝導状態の第一原理計算手法の開発を進めた。超伝導状態を記述する基礎理論であるEliashberg理論において、電子間Coulomb相互作用による電子自己エネルギーの効果は、その大きな計算コストのため、これまで理解が進んでいなかった。代表者は一様電子ガス極限においてこの自己エネルギー項の振る舞いを調べ、それが超伝導ペアリングにもたらす効果を解明した。自己エネルギーは伝導電子の有効質量にほとんど影響を与えないことが従来知られており、ペアリングへの効果も同様に小さいとこれまでは(検証無しに)推測されていたが、代表者はペアリングと有効質量の自己エネルギー補正は全く異なるメカニズムであり、後者がほとんどない状況でも前者が強く働くことを解明した。本結果はPhysical Review B誌に採択された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
準安定構造の崩壊や遷移を記述する有効集団座標を取り出すためには、エネルギー曲面の性質をよく表現でき、かつ電子状態の情報を縮約した座標表現をまず見出す必要がある。本年度はこの有力候補としてSOAPを見出し、これを与えられた構造について計算できるようにした。これにより重要なステップがクリアされたと考えている。
一方副次的な研究課題として昨年度から始めた超伝導状態の第一原理計算についても大きな進展があった。従来同一と考えられていた有効質量とペアリングへの自己エネルギー補正が実は異なる効果であり、高精度第一原理計算のためには自己エネルギー補正が不可欠であることを確立した。
以上により、研究実施期間の最後には、準安定構造探索手法の実装、応用および新構造における超伝導状態計算まで到達できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年の方針の通り、準安定構造の探索手法開発、実際の準安定超伝導体を念頭に置いた第一原理計算開発を両輪として研究を進める。前者としては、SOAPによるポテンシャル平面計算、これを用いた準安定構造間の有効主成分抽出、主成分軸上での熱力学関数計算を順次進める。後者としては、一様電子ガスのみ適用可能である現在の手法の計算コストを減らし、実際の水素化物準安定超伝導相への応用を試みる。前者の開発と並行して新奇準安定構造を探索し、これが見つかり次第後者を応用する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行により成果発表を予定していた学会が現地開催を取りやめ、旅費が消化されなかった。また同様の理由により計算機の供給が不安定になり、計算機の購入に回すことも出来なかった。
今年度の使用計画としては、計算機の供給状況が改善したため、新年度早期を目処に追加で計算機を購入する。またオンサイト学会による成果発表を積極的に行う。
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