研究課題/領域番号 |
20K20898
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
寺崎 一郎 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (30227508)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 室温強磁性 / 磁性半導体 / 共置換 / パラジウム酸化物 |
研究実績の概要 |
申請者らは層状パラジウム酸化物PbPdO2のPdサイトにFeとLiを共置換することによって強磁性が発現することを見出した。本研究の目的は、層状パラジウム酸化物の高温強磁性発現機構を実験的に明らかにし、強磁性半導体についての新しい設計指針を提唱することである。今年度の成果を列挙する (1)PbPdO2の単結晶の作成に成功し、抵抗率、ホール効果、ゼーベック効果の精密測定に成功し、伝導キャリアの基礎特性について明らかにした。その結果、この物質は一部のバンド計算で示唆されたゼロギャップ半導体ではなく、有限のギャップを持つことがわかった。また低温で抵抗率が非金属的な温度依存性を示すのは、電子・ホールの移動度の温度依存性によって理解できることを明らかにした。さらにPb(Pd,Fe)02の単結晶の作成に成功し、抵抗率、ホール効果、ゼーベック係数、磁化率などの計測に成功した。その一部は解析に成功しつつある。FeとLiの共置換した単結晶についても予備的な結果を得た。 (2)PbPdO2のPdサイトをMnとLiで共置換した多結晶試料を作成し、強磁性を探索したが、強磁性は見出されなかったが特徴的な磁場磁化曲線が観測された。 (3)周辺物質であるBi2PdO4およびLa2PdO4のPdサイトのFe置換を多結晶試料で調べ、Feの磁性を調べ、Feが低スピン状態を示すことを明らかにした。このことはPdの平面4配位の結晶場が特殊であることを示唆している。 (4)周辺物質であるTa2PdSe6において巨大なペルチェ伝導度を観測し、層状パラジウム化合物としての電気伝導の共通性を、輸送パラメタの定量測定から調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Fe置換単結晶の作成に成功し、Feの異常な磁性について決定的な結果をえた。焼結体試料での研究では無視できない磁性不純物の効果が排除しきれないが、単結晶を用いた磁化測定により、通常はありえない低スピン状態のFeイオンの存在を明らかにできた。周辺物質の磁化にも研究を展開することができ、申請書の2年目の計画を上まわる成果を得た。また周辺物質において巨大なペルチェ伝導を発見するなど、物質開発においても予期せぬ発展があった。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍による研究の制約がクリアできない状態であること、またFeとLiの共置換単結晶は測定に足る大きさに達していないため、SPring8による先端分光だけに頼らず、強磁性のメカニズムをバルク測定によって解明する。その結果を周辺物質に広げ、パラジウム酸化物の異常な磁性について総括する。ただし、パラジウムの30%以上はロシアで産出するために、研究に必要な原料を手に入れられるかどうかが一つの不安要素である。
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次年度使用額が生じた理由 |
単結晶試料の作成が比較的うまく行き、その物性の精密測定に研究を集中することで、結果的に原料試薬やアルミナるつぼなどの消耗品費用がかからなかった。またコロナ禍のための国内・国外の出張ができずそのために計上した旅費が余った。
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