本研究代表者は層状パラジウム酸化物PbPdO2にFeとLiを共置換すると800K以上の転移温度を持つ 強磁性が発現することを発見した。この強磁性はセラミック試料で見られるバルクの効果であり 、金属Feの混入のような不純物由来のものではない。本研究代表者が知る限り、この強磁性を説明する理論はなく、複雑なFe・Li置換量依存性を含めて全てが謎に包まれた現象である。本提案は、この系の詳しい磁気相図を決定するとともに、単結晶を用いた精密解析により強磁性発現機構を実験的に理解することを目的とした。 第2年度までに、Feを置換した単結晶試料の作成に成功した。第3年度は、PbPdO2のFe置換効果を単結晶の物性を元にして解析を進め、Fe置換が実行的にホールをドープするように振る舞うこと、ただしそのドープ量はFe1個あたり数%程度にすぎず、ドープ効率が悪いことがわかった。またFeの磁性はS=1の局在スピンで理解でき、Feは3価、低スピンで試料に存在することが詳細な磁気特性の解析でわかった。 さらにFeとLiの共置換した試料を作成し、強磁性の徴候と思われる磁化率の増大を観測したが、試料の再現性やLiの化学的定量性に問題が残り、強磁性の解明には至らなかった。それでも抵抗率の異方性がFeやLiの置換で大きく変更されることを発見し、この酸化物が通常の層状酸化物と異なる異質な輸送現象を示すことを発見した。今後はLi以外の元素で共置換を試し、強磁性を示す単結晶を作り出す予定である。
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