研究課題/領域番号 |
20K20899
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長尾 全寛 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (80726662)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | ベリー位相 / 電子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
ある量子系に対して、外部パラメータを閉じた経路に沿って断熱的に変化させたとき,波動関数には経路に依存した付加的なベリー位相が付加される。今日,ベリー位相は様々な量子現象で現れる普遍的な位相であることが広く認識されており、固体物理学においてベリー位相は多彩な物質群で現れる種々のホール効果の起因として議論されている。しかし、これまで固体中のベリー位相の直接観測した研究は存在しない。そこで、本研究はローレンツ電子顕微鏡法を用いて固体中のベリー位相の分布を実空間で可視化することにより,固体中の量子現象において普遍的位相であるベリー位相のマクロな物性評価では分からない隠れた特性を明示し、固体物理学に新展開をもたらすことを目的としている。当該年度は、ベリー位相による巨大な異常ホール効果が観測されている単結晶Mn3Snを対象に実験を実施した。電子顕微鏡観察のための試料薄片化はイオンミリング法で行ったが、イオンビームによるダメージが深刻であった。そのため、冷却および低加速イオンビーム照射によって薄片化を行い、試料ダメージを低減することに成功した。ローレンツ電子顕微鏡観察のための装置は加速電圧200kVの電子顕微鏡を用いた。実験の結果、ローレンツ電子顕微鏡像には、ベリー位相に由来するコントラストは観測されなかった。この原因は200kVで加速された電子線がベリー位相を獲得する確率が低いことが考えられた。そのため、今後は電子線がベリー位相を獲得する確率を上げる方法が必要であり、現在、その方法について検討中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電子顕微鏡観察のための単結晶Mn3Sn試料薄片化をイオンミリング法で行ったが、イオンビームによるダメージが深刻であることが明らかになり、この対策として冷却および低加速イオンビーム照射によって薄片化を行った。その結果、試料ダメージを低減することに成功した。一方、理論的にはローレンツ電子顕微鏡法によってベリー位相の分布が直接観察可能であるが、実験の結果、ローレンツ電子顕微鏡像にはベリー位相に由来するコントラストは観測されなかった。これは、計画時には予期していなかった200kVで加速された電子線がベリー位相を獲得する確率が低いことが原因として考えらえる。そのため、計画当初よりもやや遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
ローレンツ電子顕微鏡像にはベリー位相に由来するコントラストは観測されなかった。これは、計画時には予期していなかった200kVで加速された電子線がベリー位相を獲得する確率が低いことが原因として考えられた。そこで、今後の推進方策として、電子線の加速電圧が1000kVの超高圧電子顕微鏡を用いて厚い試料を対象として、ベリー位相による電子線の散乱確率(ベリー位相を獲得する確率)を上げることでベリー位相の直接観察を行う。また、Mn3Snは低温でベリー位相による異常ホール効果が増大することが知られており、今後は超高圧電子顕微鏡を用いた低温観察も実施する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響により、当初予定していた学外施設の利用が困難となったことと、学生で実施できる実験は研究室が所有する装置で行ったため当該助成金が生じた。また、当初は単結晶を合成する予定であったが、学外の研究者より試料を提供してもらったため、合成装置の購入が必要なくなったためである。 翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画としては、コロナ禍の影響が緩和されつつある学外の超高圧電子顕微鏡を用いて実験を行う予定であり、装置使用料および冷却実験のための液体ヘリウムの購入に充てる予定である。
|