研究課題
固体物理学においてベリー位相は多彩な物質群で現れる種々のホール効果の起因として議論されている。しかし、これまで固体中のベリー位相の直接観測した研究は存在しない。そこで、本研究はローレンツ電子顕微鏡法を用いて固体中のベリー位相の分布を実空間で可視化することにより,固体中の量子現象において普遍的位相であるベリー位相のマクロな物性評価では分からない隠れた特性を明示し、固体物理学に新展開をもたらすことを目的としている。最終年度は、昨年度に続き、ベリー位相による巨大な異常ホール効果が観測されている単結晶Mn3Snを対象に実験を実施した。これまでの実験結果により、電子線がベリー位相を獲得する確率が低く、加速電圧200kVのローレンツ電子顕微鏡では、ベリー位相に由来するコントラストは観測されないことが分かっている。そこで、最終年度は、電子線がベリー位相を獲得する確率を上げる目的で、加速電圧を変更したローレンツ電子顕微鏡観察に取り組んだ。具体的には、加速電圧1000kVの超高圧電子顕微鏡と加速電圧80kVの低加速電圧電子顕微鏡による観察に取り組んだ。その結果は、どちらも200kV加速電圧でのローレンツ電子顕微鏡観察と同様に、ベリー位相に由来するコントラストは観測されなかった。また、Mn3Snは低温で異常ホール効果が大きくなるため、同時に低温での観察にも取り組んだが、結果は同様であった。この原因は、異常ホール効果の起因となるベリー位相が分布する運動量空間のエネルギー領域と80kV~200kVで加速された電子線のエネルギーが大幅に異なることが原因と考えられた。
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Nature Communications
巻: 12 ページ: 3490
10.1038/s41467-021-23845-y
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/upload/20210610_imass.pdf