研究課題/領域番号 |
20K20902
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
久田 旭彦 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 講師 (40579885)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 高圧 / 装置開発 / 超伝導 / 固体物性 |
研究実績の概要 |
近年、高圧技術の発達に伴い10万気圧以上の高圧領域における新奇物性の発見が続いている。本研究はそうした物性をミクロ・マクロ両面から研究する為の15万気圧級小型高圧装置の開発を目指すものである。 当該年度は研究実施計画にもとづき、高圧装置の開発・性能評価と高圧下で新奇物性を示す試料の物性研究に取り組んだ。また、これらの成果については国内学会で発表を行ってきた。 高圧装置開発では、加圧の中心部品であるガスケットの構造と材質について改良開発を行った。従来のブリッジマンアンビル高圧装置では、広い試料空間を確保する工夫として金属と鉱石素材を積層させる方式が採用されてきたが、これには配線の取り出しやバランス調整に手間がかかるという課題があった。そこで我々は、これらを一体化させた「組み込み式ガスケット」を作成することで作業効率と実験の成功率を高めることに成功した。また、素材についても複数の物質を試すことで、新しい方式に最適な組み合わせを検証した。こうして作成した装置の性能評価はマノメーター試料であるBiの電気抵抗測定をもとに行い、加圧面にも改良を加えた結果、圧力発生効率を従来より20%向上させることに成功した。以上の結果はブリッジマンアンビル高圧装置を一般研究者でも利用できる手軽な技術に変えたという点や、汎用装置として知られるピストンシリンダー型高圧装置並みの装置サイズでその限界圧力の倍の8万気圧を実現したという点において重要な意味を持つ。また、我々が取り組んでいる新奇物性研究にも十分活用できる性能である。 また、これまでの成果については、日本高圧力学会主催の第62回高圧討論会や日本物理学会主催の第77回年次大会で発表を行い、国内研究者と情報交換を行ってきた。そこでは中性子実験等への応用の可能性も示唆されるなど、新たな方面への展開も期待されている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、当該年度の前半に高圧装置の製作と高圧マクロ物性測定を成功させ、後半には高圧核磁気共鳴測定への適用を開始する予定であった。しかし現状は、高圧マクロ物性測定までは成功したものの、核磁気共鳴測定については準備を始めたばかりであり、当初の計画と比べると半年ほどの遅れが生じている。その理由として、加圧実験が想定以上に困難であったことと、新型コロナウイルス感染症の影響で作業時間が減ったり機材の調達に時間がかかったことが挙げられる。 加圧実験においては配線が切れたり液体圧力媒体が漏れるといったトラブルが続出した。その原因を突き止めて改善する為、加圧面積、配線の絶縁方法、試料空間の高さと内径、加圧速度、ガスケットの構造、材質の組み合わせなど、様々な条件を変えて数十回に及ぶ試行錯誤を行ってきたが、途中、新型コロナウイルス感染症の影響で実験を行えない期間があったり、機材の調達に時間がかかる場面があったりしたため、半年程度の時間がかかってしまった。なお、現在ではトラブルの原因は特定できており、倍率の高い顕微鏡を用意したことでセッティングも効率よく行えるようになってきている。さらに、試行錯誤の過程で考案した「組み込み式ガスケット」などの工夫によって加圧の成功率も上がっていることから、これから遅れを取り戻したいと考えている。 一方、新奇物性試料の探索については、前年度に続き鉄系低次元化合物の合成に取り組んでいるが、保有している装置では最高温度が不足していることが分かってきたため、現在、条件に合う電気炉を選定中である。また、銅酸化物低次元化合物についても測定と考察を進めており、こちらは論文投稿や国際会議での発表に向けた準備を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
高圧装置開発に関しては、現在既に8万気圧の加圧に成功しているが、最終的には当初の計画通りの15万気圧級の加圧を成功させたいと考えている。その為の装置部品がまもなく完成する予定であり、半年以内には成果が得られる計画である。なお、その際の圧力校正のマノメーター試料としてはBiに加えてSnやPbなどを用いる予定である。これらを用いることで9.4万気圧や13.4万気圧といった高圧領域での圧力定点の確認が可能となる。また、マクロ物性測定による圧力校正に加えて、酸化銅の核四重極共鳴測定による圧力校正も計画している。この測定には荷重に対する圧力値の変化を連続的に観測できるという利点があり、さらに、高圧ミクロ物性測定の試行実験としての役割も兼ねている。以上の圧力校正を行いながら、CuBeやNiCrAlといった強度の高いガスケット素材にも挑戦することで、高圧下でも十分な試料空間を維持できる装置を完成させたいと考えている。 こうしたマクロ・ミクロ物性測定に必要な基礎データを揃えた上で、新奇物性を示す試料の研究にも本装置を活用していく計画である。その際、一部の測定は低温・磁場中で行う必要があるが、多重極限環境下での物性測定の実績を持つ研究協力者にも協力を仰ぎながら、計画期間内に成果を得ることを目指す。また、電気炉の性能を見直すことで測定試料の質も高めていきたいと考えている。 以上の研究成果については、国内学会での発表に加え、国際会議での発表も計画している。また、装置開発と新奇物性探索それぞれの成果についての論文投稿も計画している。これらの研究を遂行する上で、新型コロナウイルス感染症の影響が引き続き懸念されるが、オンラインツール等を活用しながら柔軟に対応していきたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
一部の予算については3月に開催された国内学会の出張費用として確保していたが、新型コロナウイルス感染症の影響で開催直前に現地開催からオンライン開催に方針が変更された為、次年度使用にまわすことになった。また、一部の予算は論文発表にかかる費用として確保していたが、推敲に時間を要したため、次年度使用にまわすことになった。
|