研究課題/領域番号 |
20K20903
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
廣部 大地 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (70823235)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | スピン偏極 / キラリティ |
研究実績の概要 |
化学分野における真のキラリティの定義は、空間反転に加えて時間反転に基づいて与えられる。これによれば、キラリティは「RPを破り、かつRTを保存する状態(R:純粋回転)」である。時間反転を含めて初めて現れるキラリティを動的なキラリティと呼ぶならば、スピン流はこの特別なキラリティの好例である。興味深いことに、キラル分子を用いた磁気抵抗測定において、鏡像体の入れ替えで符号反転する磁気抵抗が多数報告されている。この効果はキラル誘起スピン選択性と呼ばれており、キラルな原子配列という”静的な”キラリティから、スピン流という”動的な”キラリティを生成する新しい交差物性に位置する。 本研究は化学と物理の横断領域において、化学的知見を固体物性へ導入することで動的キラリティ生成に立脚した新しいスピントロニクス効果を開拓するものである。具体的には、キラルなラジカル・カチオン塩におけるキラル誘起スピン選択性の観測を目指す。研究提案時には片一方の鏡像異性体のみで磁気抵抗測定を行っていた。本年度はもう一方の鏡像異性体における磁気抵抗測定にも取り組み、磁気抵抗を観測することに成功した。重要なことに、磁気抵抗の符号は鏡像異性体の入れ替えで反転しており、キラル誘起スピン選択性の特徴と合致する。輸送測定と並行して、本研究予算で購入した小型電磁石を利用した磁場印加機構付き微小電流測定系の構築にも取り組み、サブpAの微弱な電流変化が検出可能となった。次年度は本測定系を磁気抵抗デバイスに適用し、磁気抵抗のバイアス電圧依存性を詳細に調べることで、線形・非線形領域におけるキラル誘起スピン選択性という当該研究分野の重要課題に着手する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では、次年度にもう一方の鏡像異性体におけるキラル誘起スピン選択性を検証する予定であったが、これを本年度のうちに実施し、観測に成功した。トンネル絶縁層の低い耐圧性のために、多くの磁気抵抗デバイスにサブuAの微小電流しか印加できないという実験技術上の問題がネックであった。しかしながら、構築した磁場印加機構付き微小電流測定系によりpAオーダーの電流も安定して測定できるようになり、上述の問題を解決することができた。また、検出可能な電流の範囲を想定以上に拡張することができたため、研究構想提案時には困難と考えていた「電流-電圧曲線の線形・非線形領域におけるキラル誘起スピン選択性」という当該分野の重要課題に着手する土台が整った。以上の理由から、当初の研究計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
構築した磁場印加機構付き微小電流測定系を磁気抵抗デバイスに適用し、磁気抵抗のバイアス電圧依存性を詳細に調べる。これにより、線形・非線形領域におけるキラル誘起スピン選択性という当該研究分野の重要課題について調べる。並行してラセミ体のラジカル・カチオン塩を用いて磁気抵抗を測定し、磁気抵抗が消失することを検証する。これによりキラル誘起スピン選択性の参照実験を完遂する。
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