研究課題/領域番号 |
20K20905
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
酒井 宏典 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (80370401)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 核磁気共鳴法 / 集束イオンビーム |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、従来手法では測定できないトポロジカル電子相ダイナミクスや電流磁気効果を測定できる実験手法開発を行うことである。トポロジカル相では表面電子・スピン状態を検出することが実験的命題であり、そのために新しい表面敏感NMR手法として、化合物自体をNMR高周波伝送回路として組み込むことを提案し、トポロジカル電子相のダイナミクスや電流磁気効果を調べるためのツールとしたい。具体的には、集束イオンビーム(FIB)を用いて、トポロジカル化合物自身を微小な薄膜コイル状や伝送路として成形し、その薄膜パターン試料から核磁気共鳴(NMR)信号を得たり、FIB加工した微小金属コイルを用いて表面敏感NMRを行いたい、と考えている。この挑戦的課題に対して、次のような2つのNMR実験を想定して、実験を進めている。一つは、単結晶そのものをFIB超微細加工しNMR測定を行うこと、もう一つは、単結晶表面にFIB超微細加工した通常金属コイルを密着配置しNMR測定を行うこと、である。今年度、厚み200ナノメートルの多結晶ニオブ金属(Nb)を用いて、数mm角サイズの平面コイルパターンを作成し、それを用いてNMR実験を始め、Nb核NMR検出ができないかを検討した。また、トポロジカル化合物として、ビスマス系トポロジカル絶縁体の単結晶育成を行なった。従来、その単結晶の結晶構造評価のために、通常に劈開して小片を取り出すと、劈開時の歪みの影響のために回折像がぼやけてしまうために粉末X線開設法が主に用いられてきた。今回、FIBを用いて切り出した微小結晶をカーボンニードルにカーボンデポジションにて固定した試料において、歪みのないX線回折スポットが得られることがわかった。現在、そのデータを用いた結晶構造解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本挑戦的課題に対して、次のような2つのNMR実験を想定して、研究を進めた。一つは、単結晶そのものをFIB超微細加工しNMR測定を行うこと、もう一つは、単結 晶表面にFIB超微細加工した通常金属コイルを密着配置しNMR測定を行うこと、である。今年度は、ニオブ金属(Nb)薄膜表面コイルによるNMR測定に取り組んだ。次年度は、さらに最適化を進めて、より小型の表面コイルまたは、既存表面コイルを用いて他の核についてもNMR測定に取り組みたい。また、トポロジカル化合物として、ビスマス系トポロジカル絶縁体の単結晶育成を行なった。これらの単結晶のX線構造解析において、FIB法を用いた試料調整法の確立を行った。トポロジカル物質として、ウラン系超伝導体の単結晶育成にも成功した。以上のとおり、当初計画どおりに進捗しているため、おおむね順調に進展している。と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に製作したNb膜のテストパターンを使った物性測定や、Nb核核磁気共鳴(NMR)実験をさらに進める。新たにトポロジカル物質の単結晶のX線回折による構造解析の試料調整法の確立を受けて、その結晶構造解析を進める。Nb膜コイルや線路形状の最適化を進める他、FIBを用いて微小コイル表面やジグザグ路にトポロジカル物質を組み込んだ実験を進めたい。トポロジカル物質として、ウラン系超伝導体の単結晶育成にも成功したため、これらの実験も視野に入れたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、2021年度に予定していたNb薄膜パターン作成を目的とした大阪府立大学への出張を延期したこと及び東北大学金属材料研究所の施設の共同利用を延期したことから、これらに係る費用が当初計画通りに支出できなかったため、次年度使用額が生じることとなった。次年度使用額は、次年度分研究費と合わせて、延期となったこれらの出張や施設の共同利用等に係る費用として使用する。
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