本研究の目的は、従来手法では測定できないトポロジカル電子相ダイナミクスや電流磁気効果を測定できる実験手法開発を行うことである。トポロジカル相では表面電子・スピン状態を検出することが実験的命題であり、そのために新しい表面敏感NMR手法として、化合物自体をNMR高周波伝送回路として組み込むことを提案し、トポロジカル電子相のダイナミクスや電流磁気効果を調べるためのツールとしたい。具体的には、集束イオンビーム(FIB)を用いて、トポロジカル化合物自身を微小な薄膜コイル状や伝送路として成形し、その薄膜パターン試料から核磁気共鳴(NMR)信号を得たり、FIB加工した微小金属コイルを用いて表面敏感NMRを行いたい、と考えている。この挑戦的課題に対して、令和4年度は、トポロジカル化合物として、ビスマス系トポロジカル絶縁体とウラン系トポロジカル超伝導体候補物質の単結晶育成を行なった。また、フォトマスク法によってジグザグ線路型にNb薄膜を作成し、これをNMR回路に組み込んだ。従来、単結晶の結晶構造評価のために、劈開して小片を取り出してX戦回折実験を行なってきたが、令和3年度にFIB切り出しによる単結晶X線構造解析に成功した。令和4年度は引き続き電子プローブマイクロアナライザーによって切り出した結晶の化学分析を進めた。また、ウラン系ウラン系トポロジカル超伝導体候補物質として注目を集めているウランテルル化物に関して、世界最高品質の結晶を得ることができ、その超伝導相図を決めることに成功した。Nb薄膜によるNMRコイル法によるNbそのもののNMR検出を目指して、螺旋コイル型からジグザグ線路型に切り替えて、信号観測を続けている。
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