古典分子動力学(MD)シミュレーションは、分子構造を計算機上に再現し計算することで分子の種々の物理化学的特性を解析する手法である。古典MDシミュレーションでは原子間相互作用や原子グループ間の相互作用を記述する力場の関数、並びにこの力場関数のパラメータが分子の計算機中での振る舞いを規定する。このため、適切な力場の関数系を決め、パラメータを導出することは極めて重要である。本研究では古典分子動力学法で用いる力場を改良するため、生成モデルや記号回帰などの機械学習アルゴリズムを利用しパラメータや関数系を自動で決定する新たな力場決定アルゴリズムを開発する。 2023年度は2022年度に作成した記号回帰に基づく力場決定のプロトタイプを発展させ、実際に記号回帰に基づくMDポテンシャル関数の決定を行い実応用問題での洗い出しを行った。記号回帰は、データから自動的に(比較的)単純で高速に計算可能な関数を見つけ出す手法であり、これを高精度な計算によって導かれた力のデータに対して用いることで、実行時に高速に近似できる単純な関数を見つけ出すことが期待される。2022年度までの研究で、関数に対し様々な制約(hard constraint)を入れて記号回帰を行うことの必要性が明らかになったため、2023年度ではこのための計算手法を構築した。また、相互作用粒子数が動的に変わる実用的なケースに対応するため計算方法および計算速度を改良し、実際に陰溶媒力場の導出をターゲットとして試験を行った。これらの成果は計算タンパク質科学研究会2023年勉強会および第37回分子シミュレーション討論会で学会発表を行った。
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