研究課題/領域番号 |
20K20909
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大野 哲靖 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (60203890)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 単純トーラス型プラズマ / 螺旋状プラズマ / 高密度水素・窒素混合プラズマ / アンモニア合成 / 水素原子 / 窒素原子 / 2光子吸収レーザー誘起蛍光計測 |
研究実績の概要 |
単純トーラス型プラズマ装置を用いて,長い磁力線長有する螺旋状プラズマを生成し,近接領域に異なった電子温度(高温,低温)領域が存在するこれまでにない水素,窒素混合プラズマ反応場を形成し,高電子領域(5eV以上)での水素分子の解離過程と低電子温度(1eV以下)での窒素分子イオンの解離性再結合過程を共存させることにより,アンモニア合成を目的としている。前年度にはこの反応場で,アンモニアに由来するNHラジカルの発光と質量数18のスペクトルが観測された。さらにアンモニア形成効率を向上させるために,放電の最適化と消費電力の低減を実施した。陽極の熱耐性を向上させ放電電力を従来より高くした条件でプラズマ生成を行い、イオン飽和電流の2次元分布を計測した。それに基づきプラズマ中心電子温度、電子密度のガス圧依存性の評価を行った。1周目の中心位置において、ガス圧変化によって電子密度・温度は大きく変化せず、放電電力1.5 kWで電子密度10^18 /m^3以上の高密度プラズマが生成された。またプラズマ生成のために必要な総電力の約6割が長磁力線形成に占められているため,磁場強度変化によるプラズマ生成条件の最適化を行った。磁場生成のための電力を5.4kWから0.5kWに減少させても,プラズマ密度の減少は1/3程度に留まり,放電効率(総電力に対するプラズマ生成量)が著しく向上することを分かった。 さらに,水素原子,窒素原子密度を直接観測するために2光子吸収レーザー誘起蛍光システムの立ち上げを行い,重水素原子密度の計測を可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
工業的な利用を視野に放電効率の向上,磁場発生用電力低減のための実験を実施し,小さな磁場発生電力を用いて,効率の良い窒素,水素混合プラズマの生成を可能とした。また,アンモニア合成に重要な水素原子,窒素原子の密度の直接計測のために,2光子吸収レーザー誘起蛍光システムを稼働させ,水素原子密度の計測に成功するなど実験は進展している。また,当該成果は,国内外の学会で発表されている。以上より,概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
より低電力で高密度の水素ー窒素混合プラズマの生成のために,磁場強度,磁力線のピッチ角,放電用の水素ガス,窒素ガス導入量の最適化を行い,投入電力に対するアンモニアの合成量を向上させる。プラズマ密度,温度の空間分布は2次元駆動ラングミュアプローブを用いて計測を行う。また,導入した二光子吸収レーザー誘起蛍光システム(TALIF)を改良し,窒素原子密度の計測を可能とする。TALIFを用いて,アンモニア合成量が最大となる条件での,重水素原子,窒素原子の空間分布を計測し,アンモニア合成量と重水素原子,窒素原子の空間分布の相関を明らかにする。さらに,重水素ガスー窒素ガス,軽水素ガスー窒素ガスを用いた混合プラズマでのアンモニア合成を行い,水素同位体効果を明らかにする。 また,六ホウ化ランタン,もしくはタングステンを用いた自己加熱型熱電子放出電極を用いて電子ビームをプラズマに導入し,高エネルギー電子成分印加によるアンモニア合成量の変化を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
高電力放電時に真空容器の真空シールが損傷し真空リークが発生したが,真空リーク箇所の同定に時間を要したために(真空リーク場所に依存して保守用の真空部品が異なる),保守部品の当該年度内での入手が困難であった。真空リーク場所の同定が完了したため,該当する真空部品を購入する。 さらに,導入した2光子吸収レーザー誘起蛍光システムを窒素原子計測に拡張するためには,窒素原子からの発光に相当する光学フィルターなどの光学部品群の購入が必要となったが,光学的バンド幅など光学部品群の選定に遅れが生じたため。
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