研究課題/領域番号 |
20K20914
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
荒巻 光利 日本大学, 生産工学部, 教授 (50335072)
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研究分担者 |
大野 哲靖 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (60203890)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | ゴーストイメージング / 吸収分光法 / プラズマ分光 |
研究実績の概要 |
光の吸収から物質の濃度を得る吸収分光法はプラズマに限らず,さまざまな分野において簡便な測定法として用いられている.一方で,吸収分光法は光の伝播路で積分された情報しか得られないという大きな欠点がある.本研究では光の伝搬方向に空間分解能を有するゴーストイメージング吸収分光法を提案している. 本研究の中心的なアイデアは,構造化照明を空間的に制限した範囲で結像させてゴーストイメージングを行い,構造化照明がコントラスを持って吸収された領域のみを画像化することにある.構造化照明の生成には,10μm角程度の微小なミラーを集積したデバイス(DMD)を用いる.2020年度は,レーザーを光源とした構造化照明の試作と性能評価を行った.レーザー光源を用いてもインコヒーレントな光に変換することで,結像面以外で構造化照明のコントラストを低下させられることを確認した.2021年度は,ゴーストイメージングシステムの制御プログラムと測定データの解析プログラムを開発し,ゴーストイメージング吸収分光法の原理検証実験を行った.原理実証実験では,簡単のために測定対象をプラズマではなく透明なアクリル板に10mm程度の大きさの文字を印字して吸収体として用いた.5万枚の構造化照明を生成してゴーストイメージング測定を行った.その結果,吸収体の構造が十分に認識できるゴーストイメージが得られ,新しく構築した測定系が正常に動作していることが確認できた.さらに,構造化照明の光路上の結像面および結像面から離れた位置に吸収体を配置して測定を行い,ゴーストイメージに結像面に配置した吸収体の構造のみが現れることを確認した.これにより,結像を制御した構造化照明を用いたゴーストイメージングによって,視線方向に分解能をもつ吸収分光法が実現可能であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は,2020年および2021年にゴーストイメージング吸収分光の原理実証実験を実施し,2022年には再結合プラズマの空間構造の観測に適用することを目指している.2020年度は,ゴーストイメージングに必要となる要素技術である構造化照明の生成系を試作した.これにより,レーザーを光源としても,インコヒーレント光に変換して用いることで結像面周辺のみで高いコントラストをもつ構造化照明が生成できることを確認した.2021年度は,DMDで構造化照明を高速に切り替えつつ透過光強度を測定するゴーストイメージング測定系とその制御プログラムを開発した.構造化照明の結像面に吸収体を配置し,5万枚の構造化照明を10kHzで切り替えてゴーストイメージング測定を行った.透過光強度と構造化照明の相関計算によりゴーストイメージを再構成し,測定系が正常に動作していることを確認した.視線方向の空間分解能を示す原理実証実験として,結像面と結像面から離れた位置に吸収体を配置して複数の吸収体が構造化照明に作用する条件でゴーストイメージング測定を行った.その結果,吸収体がその構造サイズの数倍程度結像面から離れると,再構成画像に影響を与えないことが確認された.このことは,ゴーストイメージング吸収分光法が視線方向の空間分解能を有することを示している.本研究では,ゴーストイメージング吸収分光法を開発し,再結合プラズマの空間構造の観測に適用することを目指しており,高密度ヘリコン波プラズマ源も並行して開発を進めている.真空容器,磁場コイル等の開発が完了し,2021年度にプラズマ生成実験を開始している.このように,ゴーストイメージング吸収分光法の確立に向けた基礎的な研究と装置開発が順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度までに,ダミー吸収体を用いたゴーストイメージング測定の原理実証実験が完了した.その開発過程で本測定法がソフトウェア的にも,ハードウェア的にも負荷が高く,1回の画像取得までに長時間を要することが明らかとなった.そのため,今後の開発効率を向上し実用的な測定法として確立するには,システム全体の高速化が必須である.具体的には,構造化照明のランダムパターンの生成,DMDへの照明構造データの転送,そして,再構成画像を得るための相関計算を高速化する.これにより,リアルタイムに近い画像化を目指す.また,視線方向の空間分解能の定量的な評価,再構成画像のコントラストを向上させるための光学系の改良,画像圧縮技術等の導入による高速化等を検討する.高密度ヘリコン波プラズマ源の開発に関連して,ヘリウム,水素およびアルゴンを作動ガスとして,磁場配位,高周波電力,ガス圧,ガスの真空容器内滞在時間に対するプラズマパラメータおよび中性ガス温度の依存性を調べ,再結合プラズマの生成条件および各パラメータの空間依存性を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はゴーストイメージング測定系の開発と原理実証実験に注力したため,プラズマ分光用の光源開発を2022年度へと繰り越した.これにともない,レーザー素子と関連する消耗品の購入経費を繰り越した.
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