研究課題/領域番号 |
20K20915
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
田口 光正 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 先端機能材料研究部, 上席研究員(定常) (60343943)
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研究分担者 |
須郷 由美 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 上席研究員(定常) (90354836)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | ペプチド / ナノ粒子 / 腫瘍 / 診断 / 放射線架橋 |
研究実績の概要 |
本研究では、量子ビームの照射効果を最大限利用して、悪性度が高く、難治性のすい臓がんの早期診断とスクリーニング、さらに治療が可能な腫瘍追跡型ペプチド薬剤の開発を目的としている。量子ビームは、細胞毒性を有する架橋剤などを使用することなく、タンパク質など高分子鎖に橋を架ける(架橋)ことが出来る。これまでの研究で、量子ビーム照射により架橋構造を形成することを明らかにしてきた、ヒスチジンやチロシン、フェニルアラニンを含んだ数種類のペプチドを設計し、固相合成法(Fmoc法)により合成した。このペプチドを超純水に溶解し、室温にてγ線照射した。γ線は、水分子を分解し酸化活性の高い水酸化ラジカルを発生する。この水酸化ラジカルの反応を利用してペプチドの基本骨格を保持したまま、体内滞留時間の制御や腫瘍集積性を高めるためにペプチドを架橋し、ナノ粒子化を行った。光散乱法により評価したナノ粒子の粒径は線量の増加に伴い数10 nmから500 nm程度まで増大した。ヒスチジンを含む5アミノ残基ペプチドを基材とした場合、粒径80 nmのナノ粒子が得られ、水及びリン酸バッファー中で1週間以上粒径が変化せず安定であった。一方、酵素を添加した場合には数日間でほぼ100%分解することを確認した。次に、ナノ粒子を形成しているペプチドのアミノ基に蛍光極大波長555 nmを有する色素を結合することで蛍光標識を行うとともに、正電荷を打ち消し、ナノ粒子表面を負に帯電させた。ヒト子宮頸がん由来のHeLa細胞への取り込みの様子を蛍光顕微鏡観察した結果、細胞内部へ集積することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数種類のペプチドを固相合成し、量子ビーム照射によるナノ粒子化に成功している。得られたナノ粒子の粒径安定性や生分解性を評価するとともに、蛍光標識後に腫瘍細胞に集積することを見出している。以上より、研究は順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
計画通りペプチドの合成やナノ粒子化、腫瘍細胞集積などに成功している。今後は、基材となるペプチドの組成や長さ、置換基、電荷などをパラメータとして、細胞接着性や集積性の向上を進める。さらに、RIを用いた高感度化やマウスを用いたin vivo試験など、腫瘍追跡型ペプチド薬剤の開発に向けた特性改善を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入予定であった冷却遠心分離機の代替品を他部署において使用できることとなったこと、および参加予定であった学会発表が中止となったため、次年度使用額に差額が生じた。差額に関しては、研究を進めるための消耗品の購入、論文執筆の校正費用、および論文投稿費用に充てる予定である。
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