研究課題
本研究では、量子ビームの照射効果を最大限利用して、悪性度が高く、難治性のすい臓がんの早期診断とスクリーニング、さらに治療が可能な腫瘍追跡型ペプチド薬剤の開発を目的としている。量子ビームは、細胞毒性を有する架橋剤などを使用することなく、ペプチドに架橋構造を形成することができる。これまでヒスチジン(His)とグリシン(Gly)からなる数種類のペプチドを合成し、量子ビーム照射による架橋反応を利用して、ナノ粒子を作製した。さらに、PANC-1細胞(ヒト膵臓癌由来細胞株)を用いた培養試験において、細胞内に取り込まれ蓄積される様子を観測してきた。本年度は、昨年度までのペプチドに対し、細胞に対する接着性の高いアミノ酸配列アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(Arg-Gly-Asp)と、分子を電気的に中和するためのグルタミン酸(Glu)を組み込んだ新規ペプチドHis-Glu-His-Gly-His-Arg-Gly-Aspを設計、固相合成した。0.1 wt.%のペプチド水溶液へ室温にてγ線を照射したところ、ピーク粒径50 nm程度のナノ粒子が得られた。このナノ粒子の収率は5 kGy(kGy=J/g)で90%であった。ナノ粒子の粒径は、PBS中において経時変化が小さく、高い粒径安定性を有することが分かった。さらに、ナノ粒子は生分解性を保持していることが分かった。ナノ粒子を蛍光標識し、PANC-1細胞を用いた培養試験を行った結果、細胞に対する毒性が無く、細胞内部へ取り込まれ集積することが確認された。
2: おおむね順調に進展している
細胞接着性配列を付加したペプチドを固相合成し、量子ビーム照射によるナノ粒子化に成功している。得られたナノ粒子の粒径安定性や生分解性を評価するとともに、蛍光標識後にすい臓がん細胞内に集積することを確認している。以上より、研究はおおむね順調に進展していると判断する。
新規ペプチドの合成やナノ粒子化、腫瘍細胞集積などに成功している。引き続き、基材となるペプチドの組成や長さ、置換基、表面電荷などをパラメータとして腫瘍集積性の向上を目指すとともに、マウスを用いたin vivo試験など、腫瘍追跡型ペプチド薬剤の開発に向けた特性改善を進めていく予定である。
コロナの影響で入手困難な消耗品が生じ、次年度使用額が生じた。差額に関しては、研究を進めるための消耗品の購入、論文執筆の校正費用、および論文投稿費用に充てる予定である。
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