研究課題
地球に降り注ぐ宇宙線は大気と反応し、14Cや10Beなどの宇宙線生成核種を生成する。地球への宇宙線量は、太陽磁場活動によって変調を受けているため、年輪の14Cや氷床の10Beは過去の太陽活動の代替データである。一方で太陽活動を議論する上で重要となる太陽11年周期(シュワーベサイクル)は、核種データに現れる振幅が小さいため、その検出には高精度分析や、バックグラウンド変動との分離が必須である。本研究では、1年未満の時間分解能の年輪14Cと、複数地点の氷床コア10Beを高精度で分析することで、シュワーベサイクル検出法の確立を目指す。本研究が実現することにより、黒点データの妥当性の検証や過去数万年間のシュワーベサイクルの調査を可能とする。2022年度は、信頼のおける黒点データが存在する1800年代について、年輪年代法によって年代が特定されたアラスカ産のシトカスプルースを用いて、14C分析を実施した(大正年代:1844-1876年。グラファイト抽出・加速器質量分析はスイスETHにて高精度分析実施)。年層内の変化を確認するため、早材・晩材に分離した分析を行ったが、両者の有意な差は確認されなかった。大気の14C変動から、早材・晩材間の違いが予想されることから、今回用いた試料は予想よりも短い期間年輪形成を行っていたか、特定の時期に吸収した炭素を用いて年輪形成が行われた可能性がある。本試料を用いた14C分析データには、黒点データから期待される14Cの周期変動が確認されたことから、年代を拡張してシュワーベサイクル検出が可能であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
これまでに、シトカスプルースを用いた年層内の高精度14C分析から、早材・晩材の違いは確認されなかった。これはシュワーベサイクル検出にあたって季節変動の影響を考慮する必要がないことを示しており重要な知見といえる。また、本試料を用いてシュワーベサイクル変動を確認した。シュワーベサイクルの検出が他の樹木試料の14Cデータにおいても同様に実現できるかどうか、今後の調査が重要であると考えられる。また、予定していた氷床の10Be分析の準備を進めており、課題期間内に分析実施を予定している。
今回用いたシトカスプルース以外の樹種においても、年層内の14C変動について同様の変化を示すのか、同年代について確認し、シュワーベサイクル検出にあたり、年層内分析の必要性について調査する。また、同年代について、南極、グリーンランド氷床の10Be分析を予定しており、14C、10Be双方からシュワーベサイクル変動を調査する。
新型コロナウイルスや、研究代表者の育児休暇の取得等の影響により、研究に遅延が生じ、分析の一部が完了しなかったため。次年度、異なる樹種年輪試料を用いた14C分析と、氷床の10Be分析に使用を計画している。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 6件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 7件、 招待講演 6件)
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