研究課題
本研究の目的は、超薄膜グラフェンを用いた革新的軟 X 線用光学素子の基礎開発を完遂し、地球・宇宙観測用飛翔体や地上装置への搭載を目指すことで、地球・宇宙物理学から医学・生物学分野までにわたる様々な学術領域における研究課題への取り組みに貢献することである。本年度は最も重要な原理実証試験の一つである軟 X 線帯域における透過率測定を実施した。これは熱制御素子や可視光・汚染物質防護用素子のみならず、検出器窓材や入射窓材等の宇宙・地上応用の両方を目指す上でも欠かせない特性評価試験となる。サンプルは直径 10 um 程度の貫通穴が微細加工技術にて作られた石英基板の上に転写された 5 層グラフェンとなる。申請者らは極端紫外から軟 X 線帯域にてエネルギー/空間分解能に優れる STXM 装置を保有している分子科学研究所極端紫外光研究施設にて、透過率を取得した。結果、100-500 eV を 40 eV ピッチにておよそ 89-98% の高い透過率を確認した。これは単層グラフェンに置き換えた場合 98-100% に相当する期待通りの非常に高い透過率である。また、最も透過率が落ちる炭素 K 吸収端構造付近でもおよそ 80% 以上の値を示した (Mitsuishi et al., in prep.)。次に、軟 X 線帯域にて非常に優れた分光性能を誇る X 線マイクロカロリーメータ入射窓への応用を考え、極低温環境下での耐性を評価するための原理実証試験を行った。実際の状況を想定し 3K 環境下にグラフェン素子を 32 時間程度晒し、その表面状態を観察した。結果、自立膜構造にも破れが生じることもなく、基板を含め、全ての自立膜に対し大きな破損・破壊が起こらなかったことが確認できた。さらには高感度化を目指し製作工程の条件出しを進め、直径 100 um 程度の単層グラフェン自立膜の実現にも成功した。
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