研究課題
スピン偏極中性子とは磁気の向きをそろえた特殊な中性子のことである。電荷は持たず磁気をもつその特殊な性質から応用研究は多いものの、これまでのスピン偏極中性子といえば大型加速器による大量に中性子を発生させたのちに、スピンの揃った成分だけを抽出して利用している。このプロセスは極めて効率が悪く、発生総中性子数に比べて極めて少ない割合の中性子しか利用できない。本研究では、スピン偏極させた重水素にX線を照射することで、重水素を光核分解して中性子を発生させるというこれまで着目されていなかった核反応に着目し、発生の段階でスピン偏極した中性子を直接発生させることができるかどうかという研究を行う。1年目の成果として、理論研究が大きく進み、X線のエネルギーが特定の範囲内である時に、重水素のスピンがそのまま中性子スピンに受け渡される、すなわち発生時点からスピン偏極した中性子を発生させられるはずであるという理論が構築できた。スピン偏極重水素を生成するための装置開発について、すでに先行研究を進めてきたが、必要とされる装置類のうち半分程度が揃った。実験の準備が整いつつある。
1: 当初の計画以上に進展している
スピン実験に関わる装置開発はやや遅れている。小型のオレンジ色のレーザー装置の開発がキーテクノロジーであったが、高出力化の際に励起用半導体レーザーの損傷が問題となることがわかり、励起用半導体レーザーを3台の並列にして、負荷を分散提言することで、長時間運転しても全く損傷が起こらないようになった。レーザー開発の専門家の協力を得ながら開発がすすみ、レーザーエネルギーの高出力化の見通しができた。一方、レーザーエネルギーが目標に比べて足りない状況ではあったが、スピン偏極の実験を行い、確かに少ない量ではあるがスピン偏極していることがわかり、この手法が妥当であることが確認された。また、当初計画であった装置開発以外にも特に理論研究が進み、フィジビリティの高い研究手法が固まった。またこの技術に関して特許出願を行うことができた。またこの研究成果をさらに発展させて、超小型装置でスピン偏極かつ、指向性とエネルギー制御性と、低エネルギー性を兼ね揃えた中性子ビーム発生と、その産業応用化に向けた研究課題で外部資金を獲得した。これら計画以上の成果がいくつも出始めており、総合的に進捗区分(1)を選択する。
本年度(2年目)は重水素スピン偏極実験に向けた装置開発を早期に完了させ、スピン偏極の実験を集中的に行う。3年目は中性子発生の実験を集中的に行い、それを用いた磁場の計測を実現する。本年度(2年目)の詳細計画は、オレンジ色のレーザー開発に関して、高強度化のために市販レーザー発振器を研究用のブレッドボード上に設置し直し、すべての光学部品に調整ネジをつけて発振効率を限界まで高める改造をおこなう。また励起用半導体レーザーは、これまでのファイバー付きレーザーをやめて、大強度仕様の面発光並列型に変えて、光を集光レンズで集める設計に帰る。これにより10枚程度まで励起レーザーの強度をあげることができる。これにより、重水素スピン偏極に十分なエネルギーを、従来装置にくらべて1/10のサイズで出力できるようになる。スケジュールは、レーザー装置の開発の完了予定時期は2021年の夏までを予定している。重水素スピン偏極の標的の感性は2022年3月までを予定している。これを用いた中性子発生実験を2022年度前半に実施する。
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Review of Scientific Instruments
巻: 91 ページ: 063304~063304
10.1063/1.5143657