研究課題/領域番号 |
20K20922
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
有川 安信 大阪大学, レーザー科学研究所, 講師 (90624255)
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研究分担者 |
佐藤 透 大阪大学, 核物理研究センター, 招へい教授 (10135650)
余語 覚文 大阪大学, レーザー科学研究所, 准教授 (50421441)
根来 誠 大阪大学, 先導的学際研究機構, 准教授 (70611549)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | スピン偏極中性子 / 光トリプレットDNP |
研究実績の概要 |
本研究はレーザー駆動中性子発生における新手法を用いて、スピン偏極中性子の直接発生を目指す研究である。スピン偏極した重水素に大型レーザー(阪大レーザー研のLFEXなど)または加速器からの電子ビームを当てて、まずガンマ線を生成して、そのガンマ線がスピン偏極重水素を核分解することでスピン偏極中性子が直接発生する。この反応は世界初となるスピン偏極中性子を直接発生させることができる反応である。またこのスピン偏極中性子ビームを用いて磁場の直接計測を行う。この手法によりレーザー核融合や超高強度レーザーによるプラズマ発生実験における磁場強度を直接計測できるようになる。重水素を含む有機結晶の重水素の核スピン偏極装置を開発する事が技術的に困難である。重水素のスピン偏極には光トリプレットDNP(Dynamic Nuclear Polarization,動的核偏極)という手法を用いる。光励起と電磁波を重水素を含むサンプルに照射するが、その光源として波長589nmの励起用レーザー光源が必須である。実験に最適なレーザー装置は市販されておらず、装置設計から製造まで自己開発してきたものである。2021年度は、これまでではじめて、自作レーザー装置でスピン偏極をさせることに成功した。偏極率はまだ小さいが、非常に大きな成果である。スピン偏極装置は阪大レーザー研のLFEXレーザー施設のすぐそばに新たに開発され、水素からのスピン偏極信号を取得するところまでは漕ぎ着けた。これから水素を重水素に換え、さらに偏極率を高める。その後LFEXレーザーを照射するステップに進む。先行して2021年にLFEXレーザーを用いた実験について実験提案書を提出した。準備研究が進んでいることが評価され、2022年9月に実験が行う計画として採択された。2022年度はスピン偏極重水素標的製造装置の開発と中性子発生まで進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スピン偏極重水素の準備について、当初計画では2年目の間に完了している見込みであったが、まだ完了していない。原因は自主開発した589nmのレーザーのピーク強度が不足していることが明らかになった。レーザー強度が不足しているため、スピン偏極率が非常に低く中性子発生に進めない状況である。パルスピーク強度をあげるにはQスイッチ(励起の途中まで光をせき止めておいて、素早く放出することでピークパワーを上げる手法)を入れることが最も効果的である。 現在我々は、Qスイッチ装置の開発を行なっている。通常のレーザー装置ならば音響光学素子(AOM)という機器を入れれば良いだけであるが、我々の589nmのレーザーは自己開発品であり、それが困難である。発振器のレーザー結晶とミラーの隙間は1mmしかなく、また2波長同時発振をおこなっているため、AOMを入れることで発振ができなくなるなのである。透過光学素子を追加せずにQスイッチングをするということが求められている。 そこで我々はプラズマを用いたQスイッチング装置を開発している。放電プラズマを利用して、光がプラズマ中で屈折を受けることを利用する。これはプラズマONの時はQスイッチストッパーとなり、プラズマOFFにすると何もない状態になるため発振が起こる。あと2ヶ月程度で完成する見込みである。 もう一つの遅れの理由は、コロナである。スピンを計測するための核磁気共鳴電磁波(NMR)の増幅電源を発注しているが、コロナの影響でメーカーで電子部品の納期が遅れており納期が9ヶ月を待っている状況である。現在は別の研究室から供用借用しながら開発を続けている。
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今後の研究の推進方策 |
波長589nmレーザーのピーク出力を今よりも10倍に増やす必要がある。我々はプラズマを用いたQスイッチング装置を開発している。放電プラズマを利用して、光がプラズマ中で屈折を受けることを利用する。これはプラズマONの時はQスイッチストッパーとなり、プラズマOFFにすると何もない状態になるため発振が起こる。 プラズマQスイッチ方式は提案こそあるものの、実用された例はなく、試行錯誤をくりかえして自己開発して進めている。 589nmレーザー発振器は、励起光源である波長800nmのLDをパルス駆動し、Nd:YAG結晶を励起して1064nmと1319nmの2波長同時発振を行ない、その2波長レーザーをKTP結晶により2波和周波合成して589nmを発生させている。NdYAGとKTPの間にプラズマQスイッチを挿入する。結晶間のすきまは1mmしかなく、ビーム系は0.3mm程度である。この極めて小さな空間に放電プラズマ源を導入する。 テスラコイルを高速リレースイッチング素子により、短パルスで放電プラズマのON/OFFを制御することができ、薄いプラスチックでサンドイッチして絶縁をとると、安定にレーザー光路に垂直な放電プラズマビームを作ることができる。これを1064nm1319nmのレーザー軸にうまく交差させると、プラズマONのときは光路がゆがんで発振が止まりプラズマOFFにするとQスイッチ発振がおこる。 このプラズマQスイッチ装置は試作機はできており、Qスイッチが動作するという世界初データも取得した。まだ最適化できていない部分が残っており、それを完了させるために2ヶ月を要すると見込んでいる。この装置ができれば当初予定通りの研究が進むことが期待される。
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