原子番号100を超える超重元素では、原子核の持つ強大なクーロン力によって軌道電子が強い相対論効果を受ける。103番元素ローレンシウム(Lr)では、その相対論効果によって価電子軌道の周期律異常が初めて出現すると予測されている。Lrの価電子軌道を直接決定する手法として、Stern-Gerlach実験に代表される原子線分光法が挙げられる。原子線分光法には低速原子ビームが不可欠であり、その実現のためにイオンガイド技術を組み合わせた再結合型中性化機構による原子ビーム生成法の確立を目指す。 2022年度は、開発した高周波四重極イオントラップでトラップされたイオンを中性化器に通過させ、Langmuir-Taylor(LT)検出器を用いて再結合した原子の直接観測実験を行った。しかしながら、LT検出器における原子の再イオン化電流測定では、有意な原子ビームの信号を得ることはできなかった。そこで、イオンバンチの到着に時間同期した検出によって検出感度を向上させるべく、イオントラップの電極を斜めに分割して軸方向に電位勾配を生成する改良を行った。その結果、これまでミリ秒程度の大きな時間幅を持ったイオンバンチを、数桁小さなマイクロ秒程度の時間幅まで小さくすることに成功した。 研究期間全体を通して、効率的な原子ビーム生成に欠かせないイオントラップの開発及び原子ビームの直接観測のためのLangmuir-Taylor検出器の開発に成功した。しかしながら、原子ビームの直接観測では、現在のところ有意な原子ビームの信号は得られていない。今後、より検出感度を上げた検出系によって、直接観測を試みる予定である。
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