研究課題/領域番号 |
20K20926
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
西口 創 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (10534810)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 素粒子実験 / 放射線検出器 / 大強度加速器 / 放射線損傷 / 電気光学効果 |
研究実績の概要 |
本研究では、大強度加速器におけるビーム検出器の放射線損傷の問題を、従来とは全く異なる動作原理に基づく検出器の開発で克服することを目指す。そこで、大強度ビームによる空間電荷効果が引き起こす電場擾乱を検出可能である事を示し、微小な電場擾乱の検出は誘電体の持つ非線形電気光学効果を応用する事で実現する。誘電体に電場を印加すると屈折率が変化する事が知られており、光学産業では屈折率や光透過を制御する技術として応用されている。これを逆転の発想で応用、ビーム起因の電場擾乱により引起こされる屈折率変化を検知、これによりビーム検出を実現する。この方式なら、検出器の媒体に放射線損傷が起きても、ビームにより引き起こされる電場擾乱の大きさに影響はないため、検出器としての動作そのものに大きな影響はない。本研究により、J-PARCで計画中のミュー粒子電子転換過程探索実験や、将来の大強度ニュートリノ実験でも安定に精度良く動作可能な大強度ビーム検出器が実現可能になる。本研究で全く新しい検出原理を実証することで放射線損傷問題を克服、より大強度なビームを用いた実験を可能にし、より高いエルギー領域に迫る新しいアプローチを切り拓く。
そこで令和2年度には、誘電体の屈折率の変化を検出するセンサーの開発、及び本研究の仕上げとして実施を予定しているビーム照射試験の際にビーム軌道を検知する飛跡検出器の構造体ジグの製作を進めた。前者に関しては、既存のセンサーを組み付ける容器を製作したが、幸い別の研究で使用を終えた装置筐体を流用出来る事が判明し、それを改造することで完成した。そのため、この件に関して予定していた予算は令和3年度に繰越し、その予算は当初予定より多くの種類の誘電体での試験をするために用いることにした。後者の構造体ジグは完成し、令和3年度に製作する予定の飛跡検出器の構造体として用いる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、実現を目指す全く新しいビームモニタの①「屈折率センサーの開発」、②「検出器試作機の製作」、③「試作機の動作試験」、及び④「試作機へのビーム照射試験による性能評価」の4段階でこれを進める。 誘電体の屈折率の変化を検出するセンサーの開発として、従来品の光センサーと、基準光を導入する光学系、それらを精度良く設置する構造体、の3つを製作するが、令和2年度はこの構造体の設計と製作を進めた。 また、④で実施を予定しているビーム照射試験の際にビーム軌道を検知する飛跡検出器が必要になるため、その飛跡検出器を精度良く(0.1mmより良い精度)構成するための構造体ジグの製作を進めた。この検出器はJ-PARC・主陽子シンクロトロンの加速器終端部(アボート)にて試験する計画だが、アボート部のビームパイプに直結する必要があるため、真空中で動作可能、かつ極めて低物質量の飛跡検出器である必要がある。これらの条件を満たす検出器として、本研究代表者が別科研費で開発した導電性薄膜ストローにより実現する飛跡検出器を転用する計画で、その検出器の構造体ジグを製作し、所定の精度で加工が為されたことを実測により確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、①「検出器試作機の完成」および②「ビーム照射試験に向けた準備」の完了を目指す。 ①は、研究計画にある通り、光学ポリカーボネイトを用いた試作機に、令和2年度に開発したセンサーを組み合わせて製作し、まずは実験室にて屈折率と印加電圧の関係を詳細に調べ、これをその後の較正データとして活用する。また、レーザーを導入してカー効果検知の感度を上げる試験を実施する。この試験は、本研究の肝要を為す根幹であり、時間を掛けて慎重に行う。この試験は、全く初めての試みであり時間が掛かることが予想されるが、研究計画の延長も辞さずに、じっくりと進める予定である。また、令和2年度から繰り越した経費(検出器容器の経費が掛からなかったため繰り越した)を用いて、別の誘電体を採用した検出器試作器も製作し、こちらも合わせて試験する予定である。 ②のビーム照射試験は、J-PARC主シンクロトロンの加速器終端部にて「捨てるビーム」を照射することで実現する。そのための、直線導入機や真空槽等を用意し、最終的なビーム照射試験の準備を完了させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度に開発した誘電体の屈折率の変化を検出するセンサーを構成する部品のうち、既存のセンサーを組み付ける容器を製作したが、幸い別の研究で使用を終えた装置筐体を流用出来る事が判明し、それを改造することで完成した。従って、この容器の製作費が掛からなかったため、次年度使用額が発生した。この予算は、当初予定より多くの種類の誘電体(当初予定では光学ポリカーボネイトのみを採用する計画だった)での試験をするために用いることにした。これにより、より広範囲の誘電体での可能性を探ることが出来ることになった。
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