研究課題/領域番号 |
20K20933
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
大島 慶一郎 北海道大学, 低温科学研究所, 教授 (30185251)
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研究分担者 |
深町 康 北海道大学, 北極域研究センター, 教授 (20250508)
伊藤 優人 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), ポストドクトラル研究員 (40887907)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | ADCP / 体積後方散乱 / 物質循環 / フラジルアイス / 動物プランクトン / 巻き上がり / CEOF解析 |
研究実績の概要 |
超音波流速計ADCPの体積後方散乱強度データから、生物(主に動物プランクトン)活動、堆積物の巻き上がり、海中内部で生成される海氷(フラジルアイス)、等の海中浮遊物を検知・識別する手法を開発した。識別手法としては、複素EOF(CEOF)解析とバンドパスフィルタリングを主として用いた。中心周波数24時間のバンドパスフィルタをかけ、CEOF解析を施すことで、動物プランクトンの日周活動を明瞭に抽出する汎用性の高い手法を開発した。この方法では、潮流の強い海域では堆積物巻き上がりも抽出されるが、位相差の違いから両者は識別可能となる。フラジルアイス及び海底堆積物の巻き上がりに関しては、上層(フラジルアイスの場合)、下層(巻き上がりの場合)に重みをつけたCEOF解析、風速(フラジルアイスの場合)・海底流速(巻き上がりの場合)との結合EOF解析等を組み合わせることで、抽出はある程度可能となることもわかった。以上の識別手法を、オホーツク海、北極チュクチ海、南極ケープダンレーポリニヤ域で取得された係留系ADCPデータに適用した。南極ケープダンレー沖沿岸の係留データからは、日が昇らない冬季に動物プランクトンの日周鉛直活動が月の満ち欠けに呼応する1か月周期の変動を示すことを、南極域では初めて明らかにした。また、南極域及びオホーツク海の係留データからは、冬季海氷期は、海氷のない時期とは逆に、沿岸域より沖合域の方が動物プランクトンの日周鉛直活動が活発となることが示された。一方、過去にサンプリングした海氷の粒度粒径分布の解析を継続して行い、フラジルアイスによる堆積物取り込み過程の検討を行った。オホーツク海では2022年2月、砕氷巡視船そうやにより、新たな海氷サンプリングも行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オホーツク海での係留系ADCPから、動物プランクトンとフラジルアイスの識別を行った研究成果論文は英文科学誌Cold Regions Science & Technologyに出版された。目的としていた識別手法に関しては、動物プランクトンに対しては汎用的に識別できる手法の開発に成功した。さらに、この手法をオホーツク海と南極海で取得したADCPデータに適用し、今まで得られていない海氷期の動物プランクトンの挙動を明らかにした。以上から、萌芽研究としては、目的とした成果も得られつつあり、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
開発した動物プランクトンの識別手法をオホーツク海及び南極海で取得したADCPデータに適用した研究成果を研究論文として投稿する。今までの研究で得られた、ADCP体積後方散乱強度データによる情報と海氷サンプリングによる情報を組み合わせて、オホーツク海や南極海での海氷を介した物質循環に対する理解を深める研究を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に分担者深町氏へ配分した予算も含め調達方法の工夫により当初計画より経費の節約で生じた未使用額を合計した次年度使用予定額66万円の使用計画は、事業期間の1年延長により実施する。本研究課題の成果取り纏めをより精微に達成するために、ADCPデータの解析と海氷の分析を更に進め、論文の投稿を目指す。
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