研究課題/領域番号 |
20K20934
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
藤谷 渉 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (20755615)
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研究分担者 |
橋爪 光 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (90252577)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | イオン注入 / 二次イオン質量分析 / 相対感度係数 |
研究実績の概要 |
2021年度は、前年度までに高崎量子応用研究所のTIARAを用いてイオン注入を行った試料に対して、二次イオン質量分析計(SIMS)による深さ方向分析を行った。炭素-13を打ち込んだ炭化ケイ素および炭酸塩試料は、セシウム一次イオンを用いて分析を行い、炭素-12の強度から試料に元来含まれていた炭素-13の二次イオン強度を算出した。元来含まれていた炭素-13の二次イオン強度と打ち込んだ濃度既知の炭素-13の二次イオン強度とを比較し、試料中の炭素とイオン注入した炭素との間の感度差を算出した。同様に、クロム-53を打ち込んだケイ酸塩鉱物、ガラス、および炭酸塩試料もクロム-52の強度を用いて試料中のクロムとイオン注入したクロムとの間の感度差を算出した。さらに炭酸塩においては、あらかじめ別に定量しておいたマンガンの二次イオン強度と比較することで、マンガン・クロム年代測定に必要なMn/Cr相対感度係数を評価した。その結果、以下のことが明らかになった。(1) 注入した元素の感度と試料中の元素の感度は数10%以内の範囲内で一致していた。このことは、イオン注入した元素は試料中の元素とイオン化効率という観点では同じような振る舞いをする、ということを示唆している。(2) 炭素は注入した元素のほうが感度が高く、クロムは試料中の元素のほうが感度が高い傾向がある。(3) Ca,Mg炭酸塩(ドロマイト)Mn/Crの相対感度係数は0.8程度であり、先行研究で報告されたCa炭酸塩(カルサイト)と誤差の範囲で一致した。以上の結果を得るには、新規に導入したレーザー顕微鏡から得られたSIMS分析痕の深さ情報を用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画の三つの目標のうち、(1) 注入した元素と試料中の元素のSIMS感度の比較、(2) Ca,Mg炭酸塩のMn/Cr相対感度係数の評価は終了した。しかし、試料作製時の不具合により、ガラス試料にクロム-53がきちんと注入されておらず、この実験のみやり直す必要が生じた。まだ(3) セシウムイオン注入による試料中の鉛の高感度化というもう一つの目標は手をつけられておらず、2022年度に行う予定である。新規のレーザー顕微鏡の立ち上げと測定は問題なく行えた。まとめると、目標は2/3達成したが、上記のような不具合があったため、進捗状況の自己点検結果はやや遅れている、とした。
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今後の研究の推進方策 |
今後は残った研究目標であるセシウムイオン注入を進めるとともに、再度ガラス試料に対してクロム-53を打ち込む実験を行う。試料は作製済みであり、前回の不具合が生じないように、試料の粒子を複数個準備した。イオン注入を行う高崎量子応用研究所のビームタイムは7月上旬に確保してある。上記の二つの実験のためにビームタイムは二回必要であるため、2022年度後半にもビームタイムを確保し、当初計画が予定通り遂行できるように努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症のため、イオン注入実験や二次イオン質量分析が部分的にキャンセルになってしまい、旅費および装置使用料、分析消耗品などに充てる予算が使われなかった。2022年度は二度のイオン注入実験を行って、当初計画どおりに実験を完了できる見込みであり、2021年度で行えなかった二次イオン質量分析も合わせて実行していく。
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