研究課題/領域番号 |
20K20935
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
勝田 哲 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50611034)
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研究分担者 |
田代 信 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (00251398)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 超高層大気 / X線天文衛星 / 地球温暖化 |
研究実績の概要 |
かに星雲の地球大気掩蔽現象を用い、超高層大気の密度鉛直プロファイル測定を進めた。昨年度に続き、合計6つのX線天文衛星「あすか」「RXTE」「すざく」「NuSTAR」「ひとみ」「NICER」に搭載された8つの観測機器が取得したデータを包括的に解析し、論文発表するとともに国内外の学会で発表した。本研究により、中間圏・下部熱圏領域(高度70-115 km)の超高層大気密度が、1994-2022の28年間で約15%低下したことが明らかになった。これは、温室効果ガスの増加を考慮した最先端大気シミュレーションの予測と概ね一致していた。一方で、高度90 km以下ではデータとモデルが乖離しており、観測データが理論予想の半分程度の密度減衰率となっていた。この原因は今後の観測とシミュレーション両面から追究すべき課題であるが、オゾン層がこの30年で回復したために大気収縮のペースが落ちた可能性がある。
このような大気掩蔽観測と並行して、「すざく」衛星の昼地球データの解析も進めた。昼地球データには、太陽X線強度が地球超高層で反射された窒素と酸素の蛍光X線が非常に強く検出されるため、それを用いて大気密度や組成の変動を調査できる。我々は、「すざく」の観測期間2005-2015の中で、太陽の11年周期に同期した蛍光X線強度の変動を確認した。太陽X線と反射X線強度の高度依存性や、N/O比の季節変動なども現在調査しているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「大気掩蔽現象を通じた超高層大気密度の計測」を着実に進めてきた。この手法は当初計画していなかったものであるが、そのシンプルさゆえ、当初予想した以上に信頼度の高い観測結果が得られる。この3年間、解析手法の開発に注力し、いくつかの解析上の問題を克服することができた。現在、成果を創出する段階に入っている。2021 年には研究のアイデアと初期成果を査読論文(Katsuda et al. 2021, JGR: Space Physics)として発表した。続いて日米の複数のX線天文衛星に同じ手法を適用し、超高層大気密度の長期トレンドを解明し、第2報となる論文を発表した(Katsuda et al., 2023, JGR: Space Physics)。とくに第2論文では、地球温暖化に関する新知見が得られたため、一般社会にも広く認知してもらえるよう、埼玉大学を中心に、共同研究者の所属する複数の研究・教育機関からプレスリリースを行なった。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、かに星雲の大気掩蔽観測による超高層大気密度のモニター観測を推進する。本研究課題をさらに強力に推進すべく、国際宇宙ステーションにX線大気観測装置を搭載する計画を進められることになった。本年度は、その準備として観測実現性やバックグラウンドの評価を行う予定である。このような大気密度のモニター観測とは別に、大気中で生じる突発現象に伴う超高層大気の密度擾乱の検出も試みる。たとえば、大規模な火山噴火に伴う大気重力波の影響を調査する予定である。その他、雷に伴うガンマ線バーストの探査も進める。また、「すざく」衛星の昼地球データを用いた、酸素・窒素の蛍光X線の解析も継続推進する。今年度(2023年度)は、超高層大気の密度・組成比の長期および季節変動を調査する予定である。可能であれば、今年度打ち上げ予定のXRISM衛星の初期観測データの昼地球データの解析も進めるつもりである。X線マイクロカロリメータは、窒素と酸素の蛍光X線の微細構造を明らかにし、原子と分子を分別できると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
この3年間、コロナ感染対策のため、予定していた国内外の研究会のキャンセルやオンライン化が相次いだ。それに伴って予算の消化不良が生じた。その間、研究成果は予定通り創出できた。そこで最終年度を1年延長することで、国際会議や国内会議に積極的に参加する機会を増やし、予算を有効活用することにした。
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