研究課題/領域番号 |
20K20935
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
勝田 哲 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (50611034)
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研究分担者 |
田代 信 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (00251398)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | 超高層大気 / X線天文衛星 |
研究実績の概要 |
2022年1月15日にトンガの海底火山が千年ぶりの大噴火を起こした。その際、中国のX線天文衛星「Insight-HXMT」は超新星残骸「カシオペアA」を観測中であり、噴火前後にトンガ上空で大気掩蔽現象を捉えていた。本年度、このデータが公開された後速やかに解析を実施した。まず我々は、噴火1日前の大気密度プロファイルが大気循環モデルGAIAの期待値とよく一致することを確認した。一方、噴火の3.5、5、6.5時間後に火山近辺(水平距離1000~3000 km)の上空で生じた大気掩蔽データを解析した結果、高度90~150 kmの密度がGAIA model予想の数分の1に低下していることが判明した。このような大きな密度低下は静水圧平衡を仮定した大気循環モデルによる再現が困難であり、現実的な火山噴火データを考慮した非静力学的なモデル計算が必須のようである。また、火山噴火後の密度プロファイルをモデル予想と比較すると、鉛直距離10 km程度の距離で波打つような激しい変動が見られた。これは噴火に伴う大気重力波の影響かもしれない。
大気掩蔽観測と並行し、「すざく」衛星の昼地球データの解析も進めた。昨年度までに「すざく」の観測期間2005~2015年全体をカバーする全データ解析を終え、酸素・窒素蛍光X線強度の長期変動を導出した。本年度はX線CCDカメラの開発チームと相談し、慎重に装置の系統誤差も検討した結果、O/N比が太陽活動と正の相関を示すより強い証拠が得られた。現在その解釈を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本課題にて、大気掩蔽現象を通じた超高層大気密度の計測を着実に進めてきた。この手法は当初計画していなかったものであるが、そのシンプルさゆえ、当初予想した以上に信頼度の高い観測結果が得られる。3年間この解析手法の開発に注力して解析上の問題を克服した。初年度には研究のアイデアと初期成果を査読論文(Katsuda et al. 2021, JGR: Space Physics)として発表、続いて日米の複数のX線天文衛星に同じ手法を適用し、超高層大気密度の長期トレンドを解明し、第2報となる論文を発表した(Katsuda et al., 2023, JGR: Space Physics)。さらにトンガの海底火山の噴火の影響調査にも成功した。その結果は上空100 km付近の密度がモデル予想よりも遥かに低下したというもので、超高層大気の理論家に相談しつつその原因を究明中である(Katsuda et al., 2023年度高エネルギー宇宙物理連絡会にて発表)。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き、X線天体の大気掩蔽観測による超高層大気密度のモニター観測を推進する。今年度は、トンガ海底火山の噴火に伴う超高層大気の影響調査を論文にまとめる。加えて、「すざく」衛星の昼地球データを用いた酸素・窒素の蛍光X線の解析も継続し、本年度にはN/O比と太陽活動の相関に関する観測結果を論文にする予定である。さらに、2025年度に国際宇宙ステーションに搭載する予定のX線大気観測装置の計画(SUIM計画)には、バックグラウンドおよび観測実現性の評価で貢献する予定である。この他、昨年度打ち上げたXRISM衛星の初期観測データの昼地球データの解析も進める。現在、太陽活動が最も活発な時期を迎えており、XRISMの昼地球データに多数の太陽フレアが検出されている。マイクロカロリメータは視野が小さいため、精密分光にはある程度の期間データを蓄積する必要があるが、今年度中には質の高いスペクトルが得られるものと期待される。一方、CCDは視野が大きいためフレア1発ごとに素晴らしいスペクトルが取得されている。フレア中のスペクトル変化など詳しく調査する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大による研究計画の変更に伴い、未使用額が発生した。本年度、国内外の研究会への参加や研究打ち合わせの開催等で使用する計画である。
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