研究課題/領域番号 |
20K20936
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
吉岡 和夫 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 講師 (70637131)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 原子吸光 / 共鳴散乱 / ガラスセル / フッ化マグネシウム |
研究実績の概要 |
本研究は,超小型探査機に搭載可能な原子吸光フィルタの開発およびその校正システムの確立を目指したものである.このフィルタは,フィラメントを取り付けたガラス製の筒状のセル(ただし両端はMgF2製)に水素分子を封入したものである.通常時は全ての波長の光を透過するが,フィラメントを加熱してセル内の水素分子を熱解離すると,水素原子の吸収波長であるライマンアルファ(121.567nm)のみを散乱吸収する.また,封入ガスを重水素分子にすれば,吸収波長は121.534nmとなる.この原理を応用すれば,天体周辺の水素ガスの同位体比(D/H)を遠隔的に導出できる.このセルの開発にあたる困難の一つに,わずか33pmの水素と重水素の輝線の波長差を表現するだけの光源が容易に手に入らないことが挙げられる.一般的には,フーリエ干渉計などを用いた大型の分光装置が必要になるレベルであるが,搭載機器としての校正を考えたときには小型で簡便な光源が必要になる. そこで,本研究では,水素ガスの共鳴散乱原理を用いたランプの開発を目指す. 本年度は,この光源として想定している「直角型のガラスセル開発」を行った.具体的には,紫外線を通さない硬質ガラスでできたチューブに,紫外線を透過するガラス材(MgF2)2枚を互いに直交する位置に配置したセルを設計した.さらに,このセルの内部にフィラメントを取り付け,外部からの導入端子により電源供給できる仕様とした.こうすることで,一方のMgF2側から入射した紫外光源に対して,水素ガスで共鳴散乱された光(すなわち,121.567nm もしくは 121.534nm)のみがもう一方のMgF2から出射する仕組みである.2020年度は,この直交型ガラスセルを2台と,通常のガラスセル2台を製作し,水素充填性能の確認,および2020年度の性能評価に向けた光学系などの治工具製作を完了させた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はガラスセルと直行型ガラスセルの設計・制作まで実施できたので,2021年度の性能評価試験の準備が整ったという点で計画通りの進捗と言える.また,水素分子を解離させるフィラメントの線形や形状,長さなどのパラメタを決定するために,放射光施設を用いた実験を行い,パラメタ決定にこぎつけた.今回試作したガラスセルに取り付けたフィラメントは,これらの実験研究の結果を反映したものである. さらに,吸収・散乱特性の位置依存性を評価するための真空回転台や,これらのセルを設置するための光学系や治具の製作も完了させることができた. 一方で,ガス封入の手口や,フィラメントの長寿命化に向けたベーキング作業の最適化など,未解決の開発課題も残っている.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,まずは製作したセルに水素ガスを充填する手順を確立する.注意すべき点は,セル内部の残存水分を以下に減らせるか,である.セル内部に水が残ると,フィラメント通電時に酸素が反応し,タングステンを酸化させてしまう.その結果,通電時には1000K以上になるタングステンが,数分程度の運用時間で焼失してしまうという事態に陥る可能性が高い.そのため,水素封入前に,100℃以上の温度で十分な時間ベーキングする必要がある.なお,ガラスセルに直接ヒーターを巻き付けることはできないので,周囲を覆うジグを用意し,そこにヒーターを巻き付けることで放射加熱する.一般的に水分を除去するためには100℃以上の温度で24時間以上のベーキングが必要であるため,本研究では150℃,48時間のベーキングを目標とする.十分なベーキングを施した後は,水素ガスを封入し,ガラスを溶着することで封じ切る.こうして完成した水素充填セルおよび直交型セルを,放射光施設に持ち込み,吸収特性および散乱特性を評価する.
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