研究課題/領域番号 |
20K20942
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
瀬川 高弘 山梨大学, 大学院総合研究部, 講師 (90425835)
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研究分担者 |
西原 秀典 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (10450727)
甲能 直樹 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, グループ長 (20250136)
米澤 隆弘 東京農業大学, 農学部, 准教授 (90508566)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 古代DNA / 絶滅動物 / ニホンオオカミ / 更新世オオカミ / 本州ヒグマ |
研究実績の概要 |
かつて日本列島には多種多様な中型・大型の哺乳類が生息していたが,その多くが更新世後期(12万年-1万年前)に日本列島各地で絶滅した.本研究では国立科学博物館等の国内の研究機関に所蔵されている更新世の絶滅大型哺乳類標本から古代DNA解析をおこない,これまで未知であった絶滅大型哺乳類の系統的位置づけや,日本列島への渡来経路と時期などを解明することを目的としている. 一般に,更新世の絶滅大型哺乳類標本中のDNAの残存量は極めて少なく,またDNAは断片化していることが知られている.とりわけ高温多湿な日本列島では,DNAの分解が進んでおり,古代DNAの抽出は古人類を除いて成功していなかった.そのため市販のDNA抽出試薬では充分な古代DNAの抽出が望めないことから,断片化された損傷DNAに対して,コンタミネーションを抑えながら収率の高いDNA抽出手法や一本鎖DNAも対照としたゲノムライブラリー構築を行うプロトコールの確立を図った. 更新世後期と完新世前期のオオカミの標本内部からクリーンルーム下で無菌的にサンプリングし,DNAを抽出した.年代の古いDNAに特化した手法でショットガンメタゲノムライブラリーを作成し,次世代シーケンサーによる大規模解読をおこなった.試料の放射性炭素(14C)同位体から標本の絶対年代を測定した結果,試料年代はそれぞれ約5千年と3.5万年前の個体であることが明らかとなった.DNAの保存状態は極めて悪く,断片化やDNAの死後の塩基置換等が多く見られたが,シークエンスした古代DNA配列データから,更新世オオカミおよびニホンオオカミのミトコンドリアゲノムの構築に成功し,さらに核ゲノム解析からのニホンオオカミの起源の解明を試みた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
断片化された損傷DNAに対して,コンタミネーションを抑えながら収率の高いDNA抽出手法やゲノムライブラリー構築のプロトコールを改良・確立し,3.5万年前の更新世オオカミ,および5000年前のニホンオオカミの標本から古代DNA解析に成功した.これは,これまでのところ日本国内では最古の試料からの古代DNA抽出の成功例となる.系統推定については,イルミナ社の次世代シークエンサーを用いて大規模な古代DNA配列データを取得し,それに対する高速配列類似性検索によって得られた哺乳類配列データを用いてゲノム進化学的解析をおこなった. 先行研究で報告されているデータと併せて,ミトコンドリアゲノムの解析から進化的な時間スケールを推定し,核DNAのゲノムワイドSNPデータの解析から集団間の系統関係と遺伝的交雑の程度を推定した.これらの解析結果に基づき更新世オオカミとニホンオオカミの間の進化的な関係について複数のシナリオを構築し,最尤法により評価した. 以上のように本研究は計画通り順調に進行中である.
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今後の研究の推進方策 |
確立した微量・短鎖DNA分析の先端的手法を用いて,更新世オオカミと完新世のニホンオオカミから次世代シークエンサーを用いて取得したゲノム配列について、集団遺伝学的解析や分子進化学的解析からニホンオオカミの遺伝的起源の解明を試みる.シークエンスした古代DNA配列データに対して高速な配列類似性検索をおこなうことで大型哺乳類由来の古代DNA配列を抽出し,それを現存個体データと比較することで近縁な系統を推定する.さらに核ゲノムの解析をおこなうことで,大陸集団と分岐した時期や遺伝的な交雑が起きた年代を推定する.また,絶滅大型哺乳類の安定同位体解析をおこなうことで,食性の推定を試みる.さらに集団ゲノム学的解析から,絶滅に向かう過程で集団サイズがどのように変動するのかを推定することで,過去の生物相の遷移の解明に挑戦する.
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次年度使用額が生じた理由 |
補助事業の目的をより精緻に達成するための研究の実施のため
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