原始細胞が成長し進化する過程において、原始細胞の境界膜と細胞内部の核酸やペプチドといった情報分子重合体は協奏し、増殖していったと考えられる。その前段階である、生体材料が原始生物に至る過程において、二つの仮定を取り入れた。一つ目は統合する場そのものが増殖する必要があること、二つ目は様々な物質が取り込みやすいよう、脂質膜よりも緩やかな境界をもつような組成で形成されていると考えた。さらには脂質のような疎水性物質、核酸のような親水性物質にかかわらず、統合の場が様々な物質を巧みに取込む必要があることを勘案し、自己増殖する液-液相分離液滴が各ワールド仮説の原始生体分子の組立て場として有用だとする「液滴ワールド仮説」を提案した。 還元的雰囲気の水中で自発的にペプチドを重合しうる、ジスルフィドとチオエステル部位を有したモノマー前駆体を設計・合成した。ペプチドが水中で自発的に形成されることを微分干渉顕微鏡および動的光散乱型粒度分布計で観察・評価した。反応進行にともない細胞サイズの液滴の形成がレーザー走査型共焦点顕微鏡観察にて見出された。 本液滴は、液-液相分離液滴であることが示唆されたため、今年度は顕微ラマン分光法にて液滴内部の組成評価を行った。液滴に疎水性の脂質、DNA、RNAを添加すると、中心部に脂質が集まり、外周部に核酸が集まる傾向にあった。液滴の中心部はやや疎水的であり、外周部はやや親水的であることが確認された。
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