研究課題/領域番号 |
20K20957
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
金 俊完 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (40401517)
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研究分担者 |
吉田 和弘 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (00220632)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | エレクトロスピニング / 電界共役流体 / 積層配向ナノファイバ |
研究実績の概要 |
生体機能マイクロチップ(Organ-on-a-chip)内に多方向に積層配向されたナノファイバ膜を形成することを目的に,コレクタ電極として電解質溶液を用い,この電解質溶液の位置を電界共役流体(ECF)ジェットで制御する新たなエレクトロスピニング手法を開発している. 本年度は,配向ナノファイバを形成できるギャップ法をエレクトロスピニング法と融合している.さらに,静電場を集束させる集束電極を追加することによってナノファイバを形成する領域を制御する手法も考案している.これらの手法を組み合わせることによって,任意の積層配向ナノファイバを形成できるデバイスを開発している.集束電極に印加する電圧値はFEA(有限要素解析)のシミュレーションによって10kVに決定している.その電圧値が印加された集束電極はナノファイバの形成領域を十分に集束させる静電場を形成することを確認している. 予備実験により,ギャップ法における最適なギャップ幅が7mmであることを確認している.ギャップ法により積層配向ナノファイバを形成できる円環デバイスを提案している.このデバイスは2つの凸形状を持つ円環形状の可動式コレクタ,円環形状の無印加電極,円環形状の集束電極から構成されている.可動式コレクタの2つの凸状部分の間の寸法はギャップ幅の最適幅である7mmに設計されている.このデバイスのまわりの静電場は,可動式コレクタの2つの凸状形状の部分に集束されている.この円環形状の可動式コレクタを回転することで任意の配向角度の積層配向ナノファイバを形成できる.提案したデバイスによって,3種類の異なる配向角度を持つ配向ナノファイバが形成されることを実験的に明らかにしている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)可動コレクタと静電場制御を組み合わせた新たな積層配向ナノファイバ形成手法を提案している.(2)ギャップ法の予備実験であるギャップ幅変更実験において,ポリマー:ポリエチレンオキシド,溶媒:脱イオン水の組み合わせでのギャップ幅の最適幅である7mmを実験的に示している.(3)ギャップ法の予備実験であるコレクタサイズ変更実験において,平行平板コレクタ自体のサイズを小さくするほどに形成される配向ナノファイバの配向精度が向上されることを示している.(4)静電場シミュレーションによって可動コレクタと高電圧印加電極の追加とそれらの配置によって2つの可動コレクタの露出部分という特定領域のみに静電場を集中することができることを示している.(5)平行2直線流路デバイスによる実験結果より,流路に対して直交した角度の配向ナノファイバを特定領域のみに形成することは可能であるが,配向角度が特定の値の斜めの配向ナノファイバを特定領域のみに形成することは困難であることを示している.また,可動コレクタの露出部分の形状を四角形状から鋭角形状に変更することでナノファイバを集中させることができることを示している.(6)平行2直線流路デバイスによる実験結果を反映し,積層配向ナノファイバを形成するデバイスとして円環流路デバイスを提案し,この実験結果より,円環流路デバイスにおける流路壁の内側の円の部分に任意の配向角度の配向ナノファイバを形成することができることを示している.(7)可動コレクタの露出部分の形状を三角形状から矩形状に変更することによって,配向ナノファイバが可動コレクタの露出部の側面から流路壁の内側の円に対して伸びる割合を減らすことができ,最適な形状を求めていくことで想定していた線状のナノファイバを形成できる可能性を示している. 上記のような進捗から本研究は順調に進めていると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
(1)コレクタの露出部分の形状の最適化を行うことにより線状のナノファイバの形成を行うことができ,配向ナノファイバの形成を完全に制御できるようにする必要がある. (2)COMSOL Multiphysicsによるシミュレーションは静電場のみのシミュレーションとなっており,正電荷を付与された状態で降下してくるナノファイバからの影響を全く考慮していないシミュレーションとなっている.それにより,実際の実験環境とシミュレーション環境が完全には一致していない.そのため,ナノファイバの軌道シミュレーションを取り入れた複合的なシミュレーションを構築することでより最適な高電圧印加値,電極形状,電極配置位置を決定することができると考えられる. (3)今まででの可動コレクタは全体が固体の金属電極となっているが,最終目標のデバイスにおいては電解質溶液とグラウンド配線によるモデルを考えている.そのため,現在の積層配向ナノファイバの形成が電解質溶液を用いて実際に形成することが可能なのかについて実験的に検証する必要がある. (4)この電解質溶液の位置をECFジェットで制御する必要があるが,これについては2年目に行う予定である. (5)電解質溶液を用いる場合,予備実験で用いたポリマーであるポリエチレンオキシドは水溶性ポリマーであり,電解質溶液に到達した際に溶けて消滅してしまうので用いることができない.そのため,有機溶媒のみに溶ける非水溶性のポリマーを用いる必要がある.また,用いる有機溶媒はクロロホルム,メタノール,ジクロロメタンなどの危険な有機溶媒を用いる必要があり,予備実験装置では安全上の観点から不十分となる.そのため,非水溶性ポリマーと有機溶媒の選定,実験装置の設計を新たに行う必要がある.
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