研究課題/領域番号 |
20K20960
|
研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
柴田 隆行 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10235575)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | 原子間力顕微鏡(AFM) / AFMナノ加工 / 酸化チタン光触媒酸化反応 / チップ増強ラマン分光法(TERS) / 分子認識機能 |
研究実績の概要 |
本研究では,原子間力顕微鏡(AFM)に搭載する新規な機能として,標的となる膜タンパク質を一分子レベルで選択的に分解除去可能な技術の確立を最終的な目標としている.本申請課題では,主に,①抗原抗体反応の高い分子認識機能を援用したチップ増強ラマン分光法(TERS)に基づく分子構造のリアルタイム可視化技術(標的膜タンパク質の一分子同定)の開発と,②光触媒酸化反応を利用した標的膜タンパク質の位置選択的な一分子ナノ加工技術を開発し,③両者の技術の融合を図ることで,本提案技術の実現に向けた基礎的検討を行うことを目的としている.令和2年度に得られた成果は以下の通りである. 本提案技術の基礎となる光触媒TiO2プローブの作製プロセスの最適化を行った.具体的には,陽極酸化プロセスにおいて,プローブ固定用治具の工夫による通電状態の安定化と,プローブ探針表面からの気泡の除去効率の改善によって,プロセスの再現性の向上が図れた.その結果,光触媒活性の高いアナターゼ型TiO2プローブの作製プロセスが最適化され,高い確率(従来20%→改善後70%)でプローブの作製が可能となった.また,作製したアナターゼ型TiO2プローブを用いて,光触媒酸化反応よる細胞膜穿孔が可能であることを実証した(穿刺荷重:10nN程度).さらに,光触媒還元反応によるTiO2薄膜上へのAgナノ粒子の析出に成功し,TiO2プローブ探針表面に粒径30.5±4.5nmのAgナノ粒子の析出が可能となった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本提案技術を確立する上で,これまで問題となっていた光触媒TiO2プローブの作製プロセスを一から見直し,個々のプロセス条件(熱酸化,Tiスパッタ薄膜形成,陽極酸化方法など)の最適化を図ることで,高い光触媒活性を示すアナターゼ型のTiO2プローブの作製が高い成功確率(従来20%→改善後70%)で実現可能となった.これによって,実験効率の大幅な改善につながった.さらに,チップ増強ラマン分光法(TERS)の実現に不可欠なAgナノ粒子の析出プロセスに光触媒還元反応(硝酸銀水溶液中でTiO2探針表面に紫外線照射)が有効であることを実証した.作製条件のさらなる最適化が課題となるが,本提案技術を実現するために必須となるAgナノ粒子被覆TiO2プローブの作製の見通しを得ることができた.また,高感度TERS分光解析を実現する上で,統計学的なスペクトル分離手法(多変量解析)の有効性が確認され,分子構造のリアルタイム可視化技術(標的膜タンパク質の一分子同定)の実現に向けた基礎的知見を得ることができた.加えて,抗原抗体反応のモデル実験(ビオチン-アビジン反応)として,探針先端部へのビオチン修飾,ガラス基板表面へのアビジン修飾の基礎実験を開始している.
|
今後の研究の推進方策 |
令和2年度に得られた知見に基づき,以下の研究実施計画にしたがって研究開発を実施する. (1)前年度に引き続き,Agナノ粒子被覆TiO2プローブの作製プロセスの最適化を行う.特に.光触媒還元反応の最適化を図り,Agナノ粒子の粒径と密度制御技術を確立する.(2)作製したAgナノ粒子被覆TiO2プローブを用いて,HeLa細胞(ヒト子宮頸がん由来細胞株)への細胞膜穿孔を行い,細胞膜分子の分解反応過程のリアルタイムTERSイメージングを実現する.(3)抗原抗体反応のモデル実験(ビオチン-アビジン反応)として,ビオチン修飾Agナノ粒子被覆TiO2プローブを用いた,アビジン修飾ガラス基板表面の分子同定と標的分子選択加工の基礎的実験を行い,本提案手法の有効性を実証する.
|