本研究では、原子間力顕微鏡(AFM)に搭載する新規な機能として、標的となる膜タンパク質を一分子レベルで選択的に分解除去可能な技術の確立を最終的な目標としている。本申請課題では、主に、①抗原抗体反応の高い分子認識機能を援用したチップ増強ラマン分光法(TERS)に基づく分子構造のリアルタイム可視化技術(標的膜タンパク質の一分子同定)の開発と、②光触媒酸化反応を利用した標的膜タンパク質の位置選択的な一分子ナノ加工技術を開発し、③両者の技術の融合を図ることで、本提案技術の実現に向けた基礎的検討を行うことを目的として実施した。令和3年度に得られた成果は以下の通りである。 (1)ナイルブルー(NBA)のラマンスペクトルに特有の597cm-1付近のピーク強度を測定することで、作製したAgナノ粒子担持AFMプローブのTERS活性の定量評価手法を確立した。 (2)システアミンを介することで、Agプローブ表面へのビオチン修飾が可能となった。また、抗原抗体反応によって、Agプローブ表面に修飾したビオチン分子へのストレプトアビジンの特異的な結合が起こることを酵素反応を介して確認した。 (3)取得したラマンスペクトルにおける微弱な信号から特徴量(分子結合の差異)を高感度に抽出するために、主成分分析(PAC)の手法を適用した。その結果、Agプローブ先端からわずかに露出したSi成分の検出が可能であることを実証した。今後は、抗原抗体反応過程(分子認識)およびタンパク質の光触媒分解反応過程(分子破壊)における分子の結合状態の変化をリアルタイムで可視化することを目指す。
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