研究課題/領域番号 |
20K20962
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
蓮尾 昌裕 京都大学, 工学研究科, 教授 (40218433)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | 破壊発光 / 摩擦発光 / プラズマ分光診断 / 水素原子発光 / カメラレンズエシェル分光器 |
研究実績の概要 |
固体を勢い良く破壊すると、破壊発光や摩擦発光と呼ばれる発光が生じることが知られている。そのメカニズムについては、固体が破壊されるときに応力により帯電した亀裂が形成され、その結果亀裂面間に生じる電位で生成される放電による発光と予想されている。本研究では、プラズマ分光診断の手法を用いて放電プラメータ(ガス密度、電子密度、電界強度)を評価することから、界面に生じた電荷密度を推定する。その結果と破壊応力から生じる電荷密度との比較から、破壊発光メカニズムの妥当性を明らかにする。 2020年度に製作した雰囲気ガス制御試料破壊チャンバーを用いて、様々な水素ガス圧力中で氷砂糖の破壊を行い、その際に放出される発光強度の空間分布を観測した。0.003気圧で比較的強い発光が観測されることを確認し、また試料の空間位置によって発光強度にばらつきがあることが見られた。その発光のスペクトルを2020年度に開発した高スループットカメラレンズエシェル分光器(F値2.8)を用いて、同時観測波長範囲450 ~ 700 nm、波長分解能0.06 ~ 0.08 nmで観測した。エシェル分光器はその構造上、光を導入する入口スリットの幅のみならず高さを小さくする必要があり、今回は0.2 mm×0.1 mmの空間範囲で観測した。そのため、通常の分光器に比べ高い空間分解能となるものの、検出にかかる光量が大幅に減少する。今年度は水素原子バルマーアルファ発光線の検出に成功した。しかし、同時計測した水素原子バルマーベータ発光線の検出には至らなかった。 一方、プラズマ中の水素発光スペクトル研究に本課題で開発するような広波長範囲高分解能計測が有効であることを啓発する解説を取りまとめ、学会誌の小特集として発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度に開発した分光器と雰囲気ガス制御試料破壊チャンバーを用いて、様々な水素ガス圧力中の氷砂糖の破壊に伴う発光に対し、観測波長範囲450 ~ 700 nmで同時分光観測できた。当初使用を予定していたICCDカメラが故障したため、現有するCMOSカメラでの計測となった。その結果、水素原子バルマーアルファ発光線の検出は成功したもののスペクトル形状が確認できるほどの十分な信号ノイズ比が得られず、水素原子バルマーベータ発光線についてはノイズレベル以下であった。そのため、観測された発光スペクトルの解析によるプラズマパラメータ推定まで進めることができなかった。
|
今後の研究の推進方策 |
2020年度に開発したエシェル分光器に新たに導入するイメージインテンシファイアユニットと現有のCMOSカメラを用いることで微弱光のスペクトル観測を可能にする。これにより、雰囲気ガス制御試料破壊チャンバー中の氷砂糖トライボルミネッセンスのうち、ガス密度に敏感な水素原子バルマーアルファ発光線(656 nm)、電子密度に敏感な水素原子バルマーベータ発光線(486 nm)および電界強度に敏感なヘリウム原子発光線(668 nm)のスペクトルを同時に高分解能計測する。計測結果のスペクトル解析から得られるガス密度、電子密度、電界強度および水素分子の乖離エネルギー、水素原子のイオン化エネルギーを用いて界面の電荷密度を評価する。ダイヤモンドカッターによって破壊面を制御する試料加工を行い、へき開破壊に伴う発光スペクトルの計測を行う。水晶や氷結晶など、他の試料の破壊発光のプラズマ分光診断も行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 新型コロナ感染症対策のために2020年度においては実験装置製作の遅れが生じ、2021年度にはそれに伴って当初予定していた実験計画の遂行に遅れが生じた。さらにICCDカメラが故障し、微弱光の観測に対して、方策を練り直す必要が生じた。その結果、予定していた亀裂面制御破壊用チャンバーへの改良、偏光分光計測系の立ち上げ、国際会議での発表等のための予算を執行しなかった。 (使用計画) 保守期間が過ぎでいるため修理できないICCDカメラの代替としてイメージインテンシファイアユニットを導入する。光学系の再整備と2021年度に積み残した実験を速やかに行うことで遅れを取り戻すとともに、そのために必要な経費の速やかな執行を行う。
|