研究課題
シンクロトロン放射光から取り出された白色X線の優れた高輝度とその回折線を波長分解能を持つCdTe2次元検出器で測定することを試みた.オーステナイト系ステンレス鋼の鍛造品(SUSF316L)の粗大粒材を用意して曲げ応力の測定を行った.白色X線では粗大粒であっても回折斑点の数を減らすことなく多数の回折斑点を得ることができ,予想通りその優位性が認められた.ただし,透過X線ビーム光路の結晶粒からの回折から正確な回折角を得るために,二重露光法が有効であることからそれを採用して回折角を測定した.回折角から格子面間隔を測定することで,対象物の応力を測定することができるが,CdTeピクセル検出器のエネルギー分解能が重要となる.そのためのデータ処理ツール類も整備した.粗大粒から得られる多数の回折斑点から統計的に処理することで一定の精度が確保され,曲げ応力の測定が可能であることがわかった.さらに,この手法をステンレス鋼のと溶接部の応力測定へ拡張することを試みた.これまで溶接部の応力測定が困難とされてきた原因を明確に検討した例がなかったことから,単結晶,粗大粒材および溶接金属に白色X線ビームを透過させた回折像を観察した.その結果,単結晶は放射状の回折パターンを示し,完全な配列の大きなサイズの結晶子であることがわかった.粗大粒は方位にばらつきのある小さな結晶子であり,多数の斑点が得られた.これに対して溶接金属は,大きな結晶子であり斑点が少なく,結晶の不完全さも大きいために斑点の広がりが非常に大きい特徴を持つことがわかった.その対策として,検出器のエネルギー識別に頼らず,モノクロメータにより波長の識別を厳密にして測定することが効果的であることがわかり,波長を一定にして溶接残留応力を測定することに成功した.
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