研究課題/領域番号 |
20K20971
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
巽 和也 京都大学, 工学研究科, 准教授 (90372854)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 熱伝導 / 温度分布 / 2次元サーモリフレクタンス法 / パーコレーション理論 / ナノワイヤ / ネットワーク構造体 / ワイブル分布 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,複雑に連結・分布した物質と流路における伝熱経路,熱伝導率,伝熱量に関して,パーコレーション理論(Percolation theory)と“ゆらぎ”の確率過程を用いた数理モデルの開発と2次元Thermal Reflectance Imaging(TRI)法等を用いた実験検証を目的とする.課題全体の研究計画では,Agナノワイヤ群の通電および温度勾配を設定した場合の温度と温度勾配の空間および時間分布を測定してモデルの検証を行うが,計測ではAgナノワイヤを散布した基板の両端にて電圧または温度差を設け,ナノワイヤに発熱と温度勾配を設ける.そのときのナノワイヤネットワークの温度分布を2次元TRI法で測定し,温度分布や局所熱流束をパーコレーション理論として確率統計論であるWeibull分布を適用することでコンパクトな数理モデルで表すことを試みる. 2020年度は,2次元TRI法を用いた計測装置の構築と計測を行った.ソウル大学のProf. Seung Hwan Ko が製作した基板に散布したAgナノワイヤ群の通電時での温度分布をTRI法により測定した.温度分布は一様な分布を示さず,ナノワイヤの局所密度およびナノワイヤ同士の接点数と接触抵抗に依存する分布が得られた.さらに電流量に対する温度上昇は基板への放熱の影響を受けた.これらの特性は,温度分布の確率密度分布に対してWeibull分布を曲線回帰して求められるWeibull係数と尺度係数により表現できる可能性を示した. 今後,2次元TRI法の測定精度の向上,ナノワイヤの数密度および電極間距離等の各種条件の影響評価,簡易数値解析の手法の開発,パーコレーションの臨界浸透確率とWeibull分布によるモデル構築,を行う予定である.特に新型コロナウィルスの感染拡大により遅延したTRI法の実験装置関連の新規部品の納入と導入を早急に進める.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2次元サーモリフレクタンス法を適用した計測装置と校正方法の改良を目的として,高周波数で周期的(周波数1k~10kHz,加熱時間1micro-s以下)に基板またはナノワイヤを通電・加熱する機構を構築し,金(Au),銀(Ag),シリコン(Si)に関するサーモリフレクタンス係数と,線径100nm,長さ100micro-mのAgナノワイヤを無作為にガラス基板に散布し,通電した時の温度分布の測定を行うことに成功した.Agナノワイヤ群の試験片は,はじめに国際研究協力者のソウル大学のKo教授が独自の技術で製作したAgナノワイヤをジメチルポリシロキサン(PDMS)に散布・埋め込んだものを用いた. 結果では,AuとSi材料のサーモリフレクタンス係数は文献値のものとよく一致した.さらに幅10micro-mのAu電極の通電による温度分布とその時間変化も,数値解析結果と数%の精度で一致した.5mm離れた2電極間に設けたAgナノワイヤ群に通電したときの温度測定にも成功し,全体の温度分布だけでなくナノワイヤ1本の温度の非定常特性も求めることができた.Agナノワイヤ群の温度分布の確率密度分布に対してWeibull分布による回帰分析を行い,非一様性および通電量による影響をWeibull係数と尺度係数により整理できることを示した.これらの内容は3つの国内会議で発表した.さらに,代表者にて吸引濾過法の実験系を構築し,Agナノワイヤ群を設けた試験片の作製が可能とした.また,試料への熱・電気・力学的負荷と測定環境を高い精度で制御するためMEMSデバイス型の試験片の作製し,2次元温度分布の測定を行い,数値計算との定性的な一致が得られた.このように研究はおおよそ計画通りに進められているが,新型コロナウィルスの感染によりTRI装置部品の未納と実験の制約により,測定精度とデータ数の点で課題が残っている.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は2次元サーモリフレクタンス法により線径100nmのAgナノワイヤ群の温度分布に成功した.一方,Agのサーモリフレクタンス係数はAuやSiと比較して一桁小さく,計測では高い感度が求められる.さらに輝度に基づく測定であり,焦点位置合わせが重要であることから,2021年度は自動焦点装置(物品購入),光源,位置決め技術の改良を行い,測定精度を向上する予定である.つぎにパーコレーション理論の適用とモデルを開発するために,散布したナノワイヤに関する連結と連続問題を解いた場合の計算プログラムを作製して温度分布,Weibull係数,臨界確率に与える各条件の影響を検討する.実験でも同様にしてナノワイヤの密度や領域の大きさ等を変えて実験を行い,温度分布を評価して解析と比較する.さらに,ここに“ゆらぎ”の確率論を追加することで新たな数理モデルの構築と検証を行う. これに加えて,ナノワイヤ1本ごとの温度分布の高時間分布を求めることで,非定常法で伝熱特性の評価を試みる.この他に温度勾配を設ける機構,真空チャンバー(断熱),異なる材料(銅(Cu)等)のナノワイヤの開発を行い,計測とモデルの開発を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はCOVID-19(新型コロナウィルス)により,実験装置の改良に必要な部品が十分に揃わず,かつ実験日数の問題で,2次元サーモリフレクタンス法の計測装置の改良で遅れが生じている.主に自動焦点精度の向上に必要な追加の制御機器(中央精機製),異なる波長の光源,真空チャンバー(タカオシン)の導入が必要である.これらは,2020年度の間に試作機や借用物品で測定を試みているため機器の調整は進めているため,機器納品と設置後には計測は速やかに行えると考えている.これにより,高い精度での実験の再現性確認,そして異なる材料と線径のナノワイヤ群について計測を行い,モデルの検証実験を行う.
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