研究課題/領域番号 |
20K20994
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
藤掛 英夫 東北大学, 工学研究科, 教授 (20643331)
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研究分担者 |
柴田 陽生 東北大学, 工学研究科, 助教 (70771880)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 液晶性高分子 / 蛍光色素 / 波長変換 / 偏光変換 / 塗布膜 |
研究実績の概要 |
将来の食料危機を軽減するには、太陽光をフルに活用した植物栽培法が必要である。植物では光合成に適した波長が存在するだけでなく、葉緑素分子の立体異性構造により、一方の円偏光が活用されることが知られている。しかし、これまでに波長と偏光の変換を効率的に行える素子は提案されておらず、本研究では、光合成に使用されていなかった特定の波長の光を、光合成に有用な波長の円偏光に変換できて、大面積化・低コスト化にも有利な光機能性塗布膜を実現することを目的とした。 この塗布膜は、波長変換膜と偏光変換膜の積層構造で構成される。初年度は、光合成に不要な光の波長変換を実現できるように、蛍光二色性色素を、分子配向した液晶モノマーに溶かして高分子塗布膜を試作することに取り組んだ。まず、波長変換膜の原理確認のため、細長い分子の有機蛍光色素(青色吸収)を、細長い分子の液晶性モノマーに溶かして、その溶液をスピンコート法を用いて基板上に塗布して、紫外線照射により硬化させた。その際、低温処理・大面積化に有利な光配向膜を基板上に設けて、モノマー溶液を水平方向に分子配向させた。塗布膜の試作の結果、蛍光色素の分子配向に基づく、光吸収の異方性と、蛍光(緑色)の直線偏光発光を観測できた。これにより、波長変換膜の基本原理を確認できた。 次に、本研究の目的に沿った蛍光色素の探索を実施した。植物に有害な紫外線と光合成に使用されない緑色光を吸収して、光合成に有用な青色光を発光する有機蛍光色素を見い出して、液晶モノマー溶液により塗布膜を形成した。試作した波長変換膜を評価した結果、光合成に有用な青色波長の蛍光の直線偏光を得た。蛍光の異方性発光が劣るが、溶液の配向性を向上させることにより、今後、改善が見込まれる。 また、この直線偏光した蛍光を、既存のフィルム状の1/4波長板に通したところ、円偏光化も可能であることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の目標は、二色性蛍光色素を含む液晶性モノマー溶液で配向高分子塗布膜を形成して、特定波長において蛍光の直線偏光(発光の異方性)を実現することであった。試作実験の結果、二色性蛍光色素を用いた液晶性高分子塗布膜の試作により、波長変換原理と直線偏光化を確認することができた。また、この偏光した蛍光にフィルム状の1/4波長板を積層したところ、円偏光化も可能であることが明らかになった。これらの結果により、初年度の目標はおおむね達成できたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の目標は、初年度で得られた波長変換膜の上に偏光変換膜を塗布形成して、波長変換膜で発光した直線偏光の蛍光を、光合成に有利な特定方向の円偏光膜に変換することを目的とする。ここでは、1/4波長板として機能する偏光変換層を、蛍光色素を含まない液晶モノマーの配向・塗布・硬化により形成する。ここでは、液晶モノマーの配向処理方向を、発光層の配向方向から45°回転させて、直交偏光成分に光位相差(複屈折)が得られるようにする。得られた偏光変換膜では、厚みに応じて入射光の偏光状態が変化することを確認する。最終的には、光合成に不要な紫外光や緑色光の入射に対して、光合成に有利な青色光の円偏光が放出されることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ対応業務のため、実験の遂行にやや遅延が生じた。特に、二色性蛍光色素を含む液晶性モノマー溶液の塗布・硬化パラメータの探索は十分でなかった。最終年度は、波長変換膜の塗布形成に加えて、波長変換膜における蛍光色素の配向秩序性を改善して、蛍光の直線偏光性を高める予定である。さらに、本素子における波長変換機能および偏光変換機能を高めるため、配向力の強い光配向膜についても試作を通して探索を進める予定である。そのため最終年度においても、引き続き試作実験に必要な色素・液晶などの部材や実験用器具の購入を予定している。
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