将来、農業の作物収量を増やして食料危機を回避するには、太陽光エネルギーをフル活用した植物栽培法が望まれる。植物中の葉緑体はクロロフィル色素を含み、光合成に適した波長(赤、青)が存在するだけでなく、色素分子の立体異性構造の光化学反応に基づき、一方の円偏光が活用される(マメ科であれば左円偏光が有利)。ここでは、光合成に貢献しない、もしくは光合成を阻害する特定波長の光を、光合成に有用な波長の円偏光に変換できて、大面積化・低コスト化にも有利な塗布膜を実現するため、塗布法で一体形成できる波長変換膜と偏光変換膜の積層素子を提案した。初年度は、波長変換層を形成するため、光合成に不要な紫外線と緑色光を吸収して、直線偏光の赤色光を蛍光発光する2色性色素を見出した。この2色性色素を分子配向を伴う液晶モノマーに添加して、光配向膜の基板上に塗布することで、直線偏光成分の強い赤色蛍光を放出できた。最終年度は、波長変換膜に偏光変換膜を塗布法で直接形成して、直線偏光を円偏光に変換することを目指した。ここでは、1/4波長板として機能する偏光変換層を形成するため、蛍光色素を含まない液晶モノマーをスピンコート法で光配向膜上に塗布して、紫外線で硬化した。その際、塗布膜の厚みを減らすため、液晶モノマーを希釈できる溶媒を見出すとともに、スピンコート回転数により厚みを調整した結果、赤色光の波長に対して約1/4波長板に相当する直交偏光の位相差を確保できた。次に、前年度に作製した波長変換膜と、今年度の偏光変換膜を一体形成するため、波長変換膜の上に偏光変換層を光配向膜を介して積層した。この場合、液晶モノマーの光配向処理方向を波長変換膜の配向方向から45°回転させた。一体形成の素子から放出される赤色光を、二つの円偏光フィルタを用いて測定したところ、一方の円偏光の強度が約2:1の割合で強いことを確認できた。
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