研究課題/領域番号 |
20K20995
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小野 亮 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (90323443)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
キーワード | プラズマ医療 / 癌治療 / 免疫治療 / 正常組織照射 / ストリーマ放電 |
研究実績の概要 |
申請者は、マウスのメラノーマ癌腫瘍にナノ秒ストリーマ放電を照射すると、マウスのメラノーマに対する免疫が活性化して、マウスの全身のメラノーマに対して抗腫瘍効果が得られる可能性を、先行研究で世界で初めて示した。本研究はこれを発展させ、ナノ秒ストリーマ放電を担癌マウスの「非腫瘍部」に照射して、免疫による抗腫瘍効果が得られるかを調べる実験を行う。 マウスの背中にマウス大腸がんCT26細胞を皮下注射して、腫瘍から2cm程度離れた非腫瘍部にナノ秒ストリーマ放電を照射した。その結果、非腫瘍部へのプラズマ照射で腫瘍の成長が遅くなる抗腫瘍効果が得られた。この結果が確かであれば、非常に大きな研究成果である。現在、2回目の再現実験を行っているところである。 この実験では、腫瘍内の免疫細胞をフローサイトメトリーで測定する実験も行った。計測は研究協力者の柳井秀元氏との共同研究で行った。好中球、樹状細胞、細胞障害性T細胞など、計7種類の免疫細胞を測定した。この実験では、免疫の効果が十分現れるまで腫瘍の成長を観察し、その後に免疫細胞の計測を行ったため、すでに免疫細胞の個数がピーク時より減少していると予想され、あまり意味のある結果が得られなかった。次の実験ではもう少し前の段階で免疫細胞を行うこととし、すでに実験計画は立ててある。 この他、プラズマのどの要素が効いているかを調べる研究の一環として、ストリーマ放電の計測とシミュレーション開発、およびOHラジカルやOラジカルを照射して表面処理の効果を調べる真空紫外法の開発も平行して行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
担癌マウスの非腫瘍部へのプラズマ照射で、当該マウスの腫瘍に対する抗腫瘍効果を得ることに成功した。今後再現実験を行うが、再現実験に成功すれば本研究の最も大きな目的を達成できたことになり、本研究は順調に進展しているといえる。免疫細胞の計測については、初回は計測のタイミングが最適化されていなかったため良い結果を得ることはできなかったが、すでに問題点は洗い出して次の実験計画も終えており、こちらも順調に進んでいる。研究協力者の柳井秀元氏との連携も順調に進んでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
まず、非腫瘍部へのプラズマ照射による抗腫瘍効果の再現実験を行う。最初の再現実験は、すでに進行中である。再現実験がうまくいけば、その後はプラズマ照射条件の最適化を行う。うまく行かなかった場合は、この実験を成功させるための条件の探索を行う。 並行して、腫瘍内免疫細胞の計測も行う。非腫瘍部照射による抗腫瘍効果は、類似の手法もこれまで例がなく、何が起きているかよく分からない状況である。これを解明するためには、腫瘍内免疫細胞の計測は必須である。また、プラズマ側で何が起きているかも重要な知見であり、ストリーマ放電の計測およびシミュレーション開発も行う。プラズマ医療ではOHやOなどの活性種が重要と考えられているため、これら活性種を選択的に照射する手法の開発も継続して行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の影響で実験を思うように進められなかったことと、ナノ秒ストリーマ放電用の高電圧パルス電源の調子が悪く、その修理に手間取ったのが原因である。年度末あたりに実験が軌道に乗り始め、先に述べたように有望な結果も得られた。研究の遅れを取り戻すべく、ペースをあげて実験を進めているところであり、予定通りに非腫瘍部のプラズマ照射による抗腫瘍効果の再現実験および、その後のプラズマ照射条件の最適化、腫瘍内免疫細胞の計測などを進めていく。
|
備考 |
なし
|